チーズ作り、娘がつなぐ 山都町の酪農家親子 亡き母、思いは本に

熊本日日新聞 | 2021年06月12日 15:03

熱湯でチーズを練ったり伸ばしたりする長野麗さん=山都町
山口やよいさんが中心となって執筆した「酪農かあさんが教える 台所チーズ」

 「手作りチーズを通して、家庭に幸せな時間を届けたい」-。家庭で手軽に作れるチーズの普及活動を続けてきた熊本県山都町の酪農家、山口やよいさんが3月2日、74歳で亡くなった。やよいさんが注ぎ込んだチーズへの思いは本として残り、活動は娘の長野麗[うらら]さん(42)が引き継いだ。

 「ほら、もう、牛乳が固まり始めているでしょう?」。麗さんが温めた牛乳に食酢を加えると、鍋の中にみるみるうちに白い塊ができてきた。日本の酪農家が昔から自家用に作ってきた「牛乳豆腐」だ。

 2010年ごろ、やよいさんは牛乳豆腐をおいしくする方法を考案した。牛乳豆腐を熱湯の中で練ると、イタリア発祥のチーズ、モッツァレラのように滑らかでもっちりした食感になるのだ。試作を繰り返し、家庭にある調理器具を使って短時間でできるチーズの作り方を確立。酪農仲間らとNPO法人をつくり、県内外で講習会を開いて手作りチーズの普及を図るとともに、牛乳の消費拡大に取り組んだ。

 やよいさんの熱意には訳がある。06年、県酪農女性部協議会の会長を務めていた時のこと。全国的に牛乳の需給バランスが崩れ、県内でも廃棄を強いられる酪農家が続出。北海道の酪農家に生まれ、結婚後は山都町で酪農を営んでいたやよいさんにとって、胸が痛む出来事だった。

 思わぬ病気で道は絶たれたが、1冊の本が残された。やよいさんが中心となって執筆し、亡くなって2週間後に出版された「酪農かあさんが教える 台所チーズ」だ。家庭でできるチーズ作りを紹介しつつも、全編に酪農家の思いが詰め込まれている。

 母の遺志は、一緒に牛を育て、チーズの普及活動を続けてきた娘へとバトンタッチされた。麗さんは牧場の近くにあるカフェ兼工房で、家族向けのチーズ教室を開催。薫製チーズや青かびチーズなど新商品の開発と販売も手掛けている。

 麗さんの夢は、チーズ作りに適したノンホモ・低温殺菌牛乳が普及し、多くの家庭で手作りを楽しめるようになること。「液体の牛乳から固体のチーズができるのは、理屈抜きに面白い。たくさんの人に、体験して味わってほしい」。コロナ禍が落ち着いたら、出張講習会も再開するつもりだ。(鹿本成人)

 ※「酪農かあさんが教える 台所チーズ」は農文協刊、1430円。

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