4月30日付

04月30日 09:10

 キャンピングカーで暮らし、季節労働の現場を渡り歩く。そんな主人公の女性の姿に、5年前の熊本地震の際、慌てて自宅を飛び出し車の中で夜明けを待ったことを思い出した▼米アカデミー賞で作品賞など3冠に輝いた映画『ノマドランド』である。ノマドとは遊牧民のこと。米西部の企業城下町で暮らしていた60代の主人公は夫に先立たれ、リーマン・ショックの影響で家も失う。ついには車上生活を送ることに▼インターネット通販の倉庫や国立公園のキャンプ場で働きながら旅を続け、出会ったノマドたちと心を通わせる。劇的な展開はなく映像はあくまで静かだ。どこまでも広がる荒野や深い森林、湖といった米中西部の美しい自然が印象に残る▼登場するノマドのほとんどは高齢者。「年金だけでは生活できない」と主人公が言うように、格差や貧困も大きなテーマだろう。だが、車上生活を続ける彼女は実にたくましく、楽しげでさえある。それは「自由」だからではないだろうか▼では、自由とは。英国の哲学者ジョン・スチュアート・ミルによれば「自分自身のやり方で自分自身の幸福を追求すること」。ただし、それは他人を妨害しない限りにおいて認められる(宇野重規著『民主主義とは何か』講談社現代新書)▼車で暮らし旅することが、彼女にとっての「幸福の追求」なのだろう。翻って、わが方はどうか。彼我の国柄の違いはあれど、そんな多様な生き方を認める懐の深さはあるのか…。などと考えながら、映画館を後にした。

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