4月16日付

04月16日 09:08

 誰の人生にも特別な一曲の存在があるのかも。熊本市の金崎美季さん(54)は時折、そう思う。美季さんにとっては、ロックバンド・シーナ&ロケッツの『プロポーズ』という曲だ▼8年前、当時交際中だった夫の信敏さん(54)が運営していた同市神水の音楽スタジオでのライブ。かつてロケッツに在籍していた信敏さんは美季さんとの結婚を決意し、この曲の演奏をひそかに頼んでいた。演奏後、ボーカルのシーナさんが「おめでとう」と声を掛けてくれた▼そんな夫婦の思い出も刻んだスタジオは、熊本地震の本震で被災した。5階建てのビルはひび割れ、給水タンクが倒壊して水浸しとなった。信敏さんは「あまりの状況に何だか笑うしかなかった」という▼再建の道は険しかった。資材は高騰し建設業界は人手不足。ようやく別の場所で再建が決まっても、コロナ禍で工事が止まった。トラブル続きで信敏さんは体調不良になった。理不尽さへの怒りが込み上げ、「東北の人たちはこんな思いだったのか」と東日本大震災の被災者を思った▼5年後の今春、同市薬園町にスタジオが完成した。音楽仲間や顧客の応援も受けながら5月の開業を目指し、夫婦の手作業で内装を急ぐ。名前は『ロック会館』。「あきらめない」の一心で前を向ける場所までたどりつけた▼「必ずレコーディングにいくよ」。6年前に亡くなったシーナさんとの約束はかなわなかったが、「きっと見守ってくれている。ここから新しい物語が始まる」。そんな予感がしている。

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