4月15日付

04月15日 09:21

 在熊の近代史家渡辺京二さんの本紙連載『小さきものの近代』が始まった。明治維新から昭和の終戦までを振り返りながら、日本の近代化と、その過程で市井の人(小さきもの)たちがどのように生きたかをたどる▼日本の近代史についてよく語られるのは「進んでいる西洋に、遅れた日本が追いつこうとした」構図である。しかし幕末や明治初期に日本に滞在した西洋人たちは、江戸期からあった巧みな日本の経済構造や農業の成り立ちに目を見張り、さらに人々の質朴な習俗や暮らしぶりをたたえた▼明治初期から日本で40年近く教師を務めた英国人チェンバレンが、日本社会の変貌を「古い日本は死んで去ってしまった」と記し、その著作を「墓碑銘」と呼んだのも、「古い日本」への高い評価があったからだろう▼チェンバレンら当時、日本で暮らした多くの西洋人が指摘したのは、捨てる必要のなかった価値観の喪失である。民衆は国策の欧化を文明開化として受け入れたが、開国を迫った側から失ったものの大きさを教えられるとは皮肉だ▼普遍的な美徳を備えていた先人たちの価値観が、近代化という急激な時代の流れの中では、いかにもろかったか。将来を見据えるファインダーとしても知っておくべきだろう▼歴史は多くの人々の営みの総体だ。単純な進歩史観など表層にとどまっていては、それを知ることは難しい。だからこそ、名もなき人たちの近代を描く。「水先案内人」である渡辺さんが、読者を誘わんとする世界はそこにある。

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