「違憲法廷 再審の道開いて」 菊池事件、判決1年で弁護団ら訴え 世論喚起、コロナに阻まれ

熊本日日新聞 | 2021年2月25日 09:27

菊池事件の再審を求め、熊本地裁前で集会を開く元患者や弁護団のメンバーら=昨年11月、熊本市中央区
菊池事件の再審を求め、熊本地裁前で集会を開く元患者や弁護団のメンバーら=昨年11月、熊本市中央区
「違憲法廷 再審の道開いて」 菊池事件、判決1年で弁護団ら訴え 世論喚起、コロナに阻まれ

 ハンセン病患者とされた男性が殺人罪に問われ、隔離施設の特別法廷で死刑判決を受けた「菊池事件」の審理を憲法違反と断じた熊本地裁判決から、26日で1年。だが、検察は支援者らが求める事件の再審請求を拒否し続け、今なお実現の見通しが立っていない。

 裁判は、検察が再審請求しないため精神的苦痛を受けたとして元患者らが国に損害賠償を求めた。地裁は賠償請求を棄却したが、男性を裁いた特別法廷での審理を「ハンセン病患者であることを理由とした合理性を欠く差別で憲法違反」とする判決が確定した。

 判決を受け、元患者らでつくる3団体は昨年7月、再審請求を再び検察に要請したが、検察は期限までに回答しなかった。弁護団は、国民に広く賛同を募り裁判所に再審を求める方針に転換。11月、1205人を請求人として熊本地裁に再審請求書を提出した。

 再審を求める元患者で、菊池恵楓園入所者自治会長の志村康さん(88)は「憲法違反の審理を放置するわけにはいかない」と強調。元患者らの高齢化も踏まえ、「一刻も早く、再審開始を決定してほしい」と訴える。

 検察は今年1月になって、「地裁判決を前提としても再審請求すべき事由は認められない」と拒否。地裁判決が特別法廷の審理を「違憲」としつつも「直ちに刑事裁判の事実認定に影響する手続き違反とは言えない」などと指摘した点を論拠としたとみられる。

 これに対し、弁護団事務局長の馬場啓弁護士は「地裁判決は再審請求を妨げるものではない。差別の中で行われた審理が、再審事由にならないはずがない」と検察を批判する。

 ハンセン病への根強い差別から男性の遺族による再審請求は難しく、弁護団は国民に賛同を募る再審請求の成否について、世論の動向が鍵を握るとみる。国の隔離政策を違憲と断じた別の国賠訴訟の判決(2001年)では、世論のうねりが当時の小泉純一郎首相の控訴断念につながった。

 ただ、この間は新型コロナウイルスの感染が拡大。集会や街頭活動は控えざるを得ず、支援者やインターネットを通じた運動を余儀なくされた。国会議員らに再審制度の見直しを要望しようにも、移動制限などで「思うようにできない」(馬場弁護士)という。

 再審の見通しについて、ハンセン病問題に詳しい内田博文・九州大名誉教授は「過去に最高裁が謝罪した経緯もあり、熊本地裁は慎重に検討していると思う。新しい記録などの提出を求め、検討する動きがあれば再審の道は開かれるだろう」と説明。同地裁は「非公開の手続きのため、回答できない」としている。(臼杵大介、澤本麻里子、國崎千晶)