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社説

「共謀罪」法成立 頂点に達した政権の横暴 2017年06月16日

 国民のプライバシーと自由を脅かしかねない法律が、十分な説明もないまま数の力によって成立してしまった。いくら「安倍1強」の政権下にあるといっても、このような横暴がまかり通ってよいはずがない。

 犯罪を計画段階で罰する共謀罪の構成要件を取り込み「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が15日、参院本会議で可決、成立した。法務委員会での審議を求める野党に対し、与党は委員会採決を省略して「中間報告」で済ませるという“禁じ手”を繰り出し、本会議での採決を強行した。

 安倍晋三首相は法案の可決に向けて、丁寧な審議や、分かりやすい説明に努めることを繰り返し約束していただけに、国会軽視のそしりを免れない。突然方針を転換し、なぜ横暴さが目立つ手法をあえて選んだのか。国民に明らかにするべきだ。

<テロを防げるのか>

 改正組織犯罪処罰法は、過去3度廃案となった共謀罪をテロ対策の名の下に復活させたものだ。「テロ等準備罪の『等』はテロ以外の組織犯罪」とし、対象はテロに限定されない。

 政府は、2020年東京五輪・パラリンピックを見据えたテロ対策のために、国際組織犯罪防止条約の早期締結が必要だと主張。条約締結には、共謀罪を処罰する国内法の制定が欠かせないと唱えてきた。首相も「条約を締結できなければ、東京五輪を開催できないと言っても過言ではない」と述べ法整備に理解を求めていた。

 しかし、条約の「立法ガイド」を執筆した米国の法学者によれば、この条約はテロ対策を目的としたものではないという。条約の締結に必要な予備罪や準備罪の立法措置は完了しており、共謀罪の新設は必要ないとの指摘もある。

 過去を振り返っても、共謀罪と五輪の招致・開催が結び付けて議論されたことはなかった。単独犯によるテロも世界を震撼[しんかん]させている中、同法がテロ防止にどの程度役立つのか不明瞭なままだ。

<不明確な適用対象>

 疑問はそれだけではない。適用対象も不明確なままだ。政府はテロ組織や暴力団など「組織的犯罪集団」に限定され、下見や資金の用意など「実行準備行為」がないと処罰できないから「一般人が対象になることはあり得ない」と繰り返したが、一方では、正当な活動を行っていた団体でも目的が「一変」した場合は処罰の対象になる、とも説明した。

 目的の「一変」を誰が見極めるのか。捜査機関の恣意[しい]的な判断が入りこむ余地はないのか。犯罪の計画を立てていない人が捜査対象として巻き込まれない保証はあるのか。市民の監視が強まる恐れはないのか…。次から次へと浮かぶ疑問に、政府も国会も明確な答えを示していない。政府はできるだけ幅広く網を掛けるために、意図的に分かりにくくしているように見える。

 反原発や反基地などの運動をする団体が捜査対象になるとの懸念も拭い切れない。適用犯罪の絞り込み方にも疑問がある。公権力を私物化する政治資金規正法違反や政党助成法違反など政治家にとって都合の悪い犯罪は、なぜ対象外となったのか。

<露骨な「加計隠し」>

 幾多の疑問を抱えながら成立を急いだ背景には、首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡る問題の幕引きを図りたいとの思惑が透ける。国会最終盤に入り、政権は野党の攻勢を受けて記録文書の再調査に追い込まれた。与党は改正法案の審議難航を受けて国会会期の小幅延長も検討していたが、延長すれば野党が勢いを増し、23日告示の東京都議選にも影響しかねない、との判断が働いたようだ。

 さらに、異例の中間報告で乗りきった背景には、参院の法務委員長を公明党の議員が務めていたことも影響しているようだ。野党議員の抗議を押しのけて委員会採決を強行することになれば、公明党への打撃は計り知れない。自民党にこうした忖度[そんたく]も働いたことは想像に難くない。

 政府、与党は早く国会を閉じてけむに巻くつもりかもしれないが、一連の動きは議会制民主主義の否定であり、安倍1強の横暴が頂点に達したことを物語る。強権的な手法を許してしまう野党の弱体化は嘆かわしい限りだが、以前なら自民党の中にも政権を批判する勢力がいたはずだ。

 国家による社会の監視強化が進むのは間違いない。自由に物を言える権利を奪われないために何をすべきか、何ができるか-。市民がそれぞれの立場で考え、恣意的な運用や捜査権限の膨張に歯止めをかけていく必要があろう。


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