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新生面

8月12日付 2017年08月12日

 「顕幽二つの世界」-生者と死者の世界は「日本では互いに近く親しかった」と、民俗学者の柳田国男が論考『先祖の話』につづっている▼死者の霊は故郷近くにとどまり、子孫を見守り続ける。そして、生きている者はこの見守りを信じ祖霊を祀[まつ]る。こうした死者との交流が、古代からの日本人の素朴な信仰であったと、柳田は説く▼8月の盆が近づき、里帰りした家族とともに墓前に参じる人も多いことだろう。亡き人を思い心の中で対話する。一年の中で最も「顕幽二つの世界」の距離が縮まる時である。さらにこの時季は、広島、長崎の原爆の日を経て、15日の終戦記念日へ、先の大戦による多くの死の記憶とも重なる▼「連日の警報の下において、ともかくもこの長話をまとめあげることができた」と記しているように、柳田は『先祖の話』を大戦末期の1945年4月から5月にかけて執筆した。哲学者の柄谷行人さんは、既に敗戦を察知していた柳田が戦後に向けて書いたのだという▼<柳田が望んだのは、日本人が敗戦後の社会を『死者とともに』再建することであった。これはたんに、死者を祀るという意味ではない。二度と戦死者を生み出さないような社会を作るという意味である>(「『小さきもの』の思想」文春学藝ライブラリー)▼<たたかひてまだ鎮まらぬ百万の死者ら列島の空すさび過ぐ>(岡野弘彦)。隣国のミサイル発射計画を巡り、過熱する言葉が飛び交う今だからこそ、静かに天上の声に耳を傾け、戦後を考えたい。


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