くまにちコム:熊本のニュース速報なら熊本日日新聞

テキスト版サイトマップ


くまにちコム トップ > 社説・射程・新生面 > 新生面 1月27日付


新生面

1月27日付 2017年01月27日

 優しい小菅留治[こすげとめじ]先生が山形県鶴岡市の中学校から突然姿を消したのは、担任していたクラスが3年生に上がってすぐのことだった。生徒たちには、肺炎による休職と伝えられたが、間もなく「実は結核だ」という話が知れ渡った▼それから22年後、直木賞を受賞し作家の藤沢周平として故郷で記念講演した小菅先生は、涙ぐむかつての教え子たちに取り囲まれて「先生、今までどこにいたのよ」となじられたという▼“行方不明”の22年間は藤沢さんの長い冬の時代だった。東京の結核療養所では生死の境をさまよい、社会復帰後も「教職に戻りたい」との願いかなわず、小さな新聞の記者となる。そして、業界内で転職を繰り返した後、妻が乳飲み子を残して急死。<人の世の不公平に対する憤怒>。小説を書き始めたのは、それを吐き出すためだったと記している▼その言葉通り、初期の作品はいずれも主人公が鬱屈[うっくつ]を抱え、悲惨な結末を迎えるような暗い小説だった。それが、教え子たちとの再会を果たした後には、再婚し私生活の安定を取り戻していたこともあり、徐々に筆遣いが明るみを帯びていった▼時代小説ではあるが、英雄豪傑はほとんど登場しない。下級武士や町民、農民など市井の人々の哀歓を描いて、必ずどこかに一点救いがある。自身の人生の軌跡がそのまましみ出したような作風だった▼きのう、藤沢さんは没後20年を迎えた。命日は「寒梅忌」という。読者の心に梅一輪のあたたかさを伝え続けた人に、ふさわしい名前だろう。


新生面 記事一覧




個人情報保護方針著作物の利用についてお問い合わせ

↑このページの先頭へもどる


無断転載は禁じます。「くまにちコム」に掲載の記事、写真等の著作権は熊本日日新聞社または、各情報提供者にあります。

Copyright(C) 熊本日日新聞社,All Rights Reserved.