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新生面

1月26日付 2017年01月26日

 作家の柳美里さんは自選の言葉を解説した『私語辞典』で「嘘[うそ]」「噂」[うわさ]を取りあげ、「共になくては生き難い人生のスパイス」と定義している▼「ひとが自らの過去を語るとき、そこには必ず嘘やつくりごとが混じっていると断言してもいい」とも。つくりごとをなりわいとする職業作家らしい定義だ▼芥川龍之介『藪の中』では、一つの事件について関係者が次々に語るが、事実は一つなのにそれぞれの言い分が食い違って真実はようとしてつかめない。人は多かれ少なかれ、自分に都合のよい話をするもの。これも人間性の真理の一つだろう▼文部科学省元局長の早稲田大への天下り問題で、同省が口裏合わせのために作った想定問答の中身が明らかになった。内閣府の再就職等監視委員会の調査に備え、違法行為を隠すためのつくり話。元局長用、架空のOB官僚用、早稲田大用の3種類が用意されていたという▼もともとうそ八百を並べた問答だから3者の話に食い違いはない。出来すぎのストーリーを聞かされて、調査官もかえって不自然さを感じたかもしれない。事実は往々にして、それほど平板でのっぺりとした顔をしていないものだ▼天網恢々[かいかい]疎にして漏らさず(天は決して悪事を逃すことはない)と言うが、うそのやりとりまででっち上げて言い逃れしようとした了見が見苦しく情けない。人生のスパイスとは程遠いうそで、それをやったのが文科省というのもあきれる。いや、いかにもお役所のやりそうなことだ、と言うべきだろうか。


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