食考くまもと2007

阿蘇の自然そのまま味わう 農家レストラン
栽培から料理まで安全、安心に 栽培から料理まで安全、安心に

 阿蘇市手野のビニールハウス。午前七時、早朝の涼しい風が吹く中、野菜の収穫が始まった。精を出すのは、同市湯浦の田楽の店「あそ乃YAMABOUSHI(やまぼうし)」の女将(おかみ)阿部かちみさん(51)と母親の市原立子さん(76)。二人は、かごに集めたナスやピーマン、ニガウリなどの野菜を見てうれしそうにほほ笑んだ。

津奈木小の児童
野菜を収穫する「あそ乃YAMABOUSHI」の阿部かちみさん(左)と市原立子さん=阿蘇市
授業の黒板
地元の食材にこだわる「小次郎渕」のオーナー辻省一さん=阿蘇市
パワーアップシート
「田子山」のあか牛に舌鼓を打つ観光客=阿蘇市
 かちみさんは、二十代のころ、大阪で三年半プログラマーとして働いていた経験を持つUターン組。店は二〇〇二(平成十四)年、「阿蘇に戻り、あらためて自然のすばらしさを実感した。この自然の中で育った作物をたくさんの人に食べてほしい」と開業した。

 店の前の田んぼでは、有機JAS規格を取得した無農薬のアイガモ米を栽培。今年五月には、そのアイガモ米と天然の地下水を使ったどぶろくも完成した。

 同市黒川の炭火焼き店「小次郎渕」は、阿蘇地域で最も古い農家レストラン。店内に入ると、オーナー辻省一さん(58)の二女の智美さん(24)が「牛肉は焼き過ぎないようにしてくださいね」とにこやかに声をかけていた。家庭的な雰囲気が心地よい。

 牛肉の輸入自由化が議論になっていた一九八六(昭和六十一)年にオープン。省一さんは「大量生産ができなくても、少量生産高付加価値の食品が作れる日本の農家の強みを生かしたかった」という。

 軟らかい肉質を持つ黒牛の雌牛のみを使用。さらに、うま味が出るよう三年間肥育する。日本のトップブランドといわれる松阪牛と同じ方法だ。野菜もほとんど自前。土壌のいい田んぼでしか米作りはしない。省一さんは「世界中から観光客が訪れる阿蘇。地元の食材のよさを多くの人に伝えたい」と語る。

 同市三久保のあか牛専門料理店「農家れすとらん田子山」は畜産農家の小野哲也さん(64)、聖子さん(58)夫妻が九八年、「あか牛を地元で消費し、阿蘇のブランドとして確立したい」と開いた。

 あか牛は、たれを使わず、塩とポン酢のみで食べる。肉本来のうま味が伝わるからだ。福岡県から来たという男性は「三度目の来店。あか牛は脂肪分が少なくておいしい」。リピーターが多く、県内外から年間八千人を超える観光客らが訪れる人気店だ。

 哲也さんと長男卓さん(29)が、約二百ヘクタールの大観峰の入会地で、あか牛の繁殖から肥育まで行っている。イモやカボチャなど十数種類の野菜や米も自家栽培している。聖子さんは「お客さんの反応がじかに分かるから、生産から手が抜けない。大変だけど、それがやりがい」と力を込めた。

 県阿蘇地域振興局によると、阿蘇郡市の農家レストランは、十年ほど前から増え始め、現在は二十店舗を超えているという。食への関心が高まる中、手間暇かけて安全、安心な素材にこだわる農家レストランは今後も増えそうだ。(岡恭子)
熊本日日新聞2007年9月13日朝刊

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