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<助産師の苦悩> 心で何度も「ごめんね」
揺れるいのち 赤ちゃんポストのメッセージ(1)
 熊本市の慈恵病院が設置準備を進めている「赤ちゃんポスト」(こうのとりのゆりかご)が大きな反響を呼んでいる。本紙に届いた六十通近い読者の便りには、設置の賛否にとどまらず、命、性、出産、家族などに関するさまざまな思いが込められていた。「赤ちゃんポスト」が投げかけた「揺れる幼いいのち」を、読者の意見とともに見つめた。(赤ちゃんポスト取材班)

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新しい命が誕生する病院の分べん室=熊本市(野田徹)
 片手に乗るほどの胎児は、マシュマロのように柔らかい。目や耳、鼻の形もでき上がり、手足の指も見える。心臓がピクピクと鼓動し、とがった小さな口を開けて懸命に空気を吸い込んでいる。時には、か細い声を上げようとする。

 「ごめんね」。心の中で何度もつぶやきながらガーゼを敷いたステンレス製の膿(のう)盆に置く。しだいに心臓の拍動はやみ、赤みを帯びた体は紫黒くなっていく。

 県内の産婦人科。三十代の助産師、ユキコさんは、ため息をついた。「中期中絶、できればやりたくない」

 中期中絶は、ある程度大きくなった胎児を堕胎する方法だ。薬で陣痛を起こし、流産させるのだが、胎児が生きた状態で母体から出ることも少なくない。

 勤めている病院では、中期中絶は三日に一回のペース。胎児は、ガーゼや脱脂綿でくるまれ、埋葬のための手続きを済ませた母親が引き取りに来るのを待つ。

 「最後に手を下したのは自分じゃないのか。こんなことをするために助産師になったんじゃないのに」。助産師になって数年、中期中絶にかかわった日は家で泣いた。

 中絶は、母体保護法で妊娠二十二週未満にしか許されていない。「初期中絶」は妊娠十二週ごろまで。子宮の中にある赤い組織片のような「胎芽」を取り出す。より進んだ段階の「中期中絶」は、人工妊娠中絶の一割以下と言われるが、実施病院や件数などの実態把握は難しい。

 厚生労働省によると、二〇〇五(平成十七)年度の全国の人工妊娠中絶は約二十八万九千件。うち県内は五千五百四十件。全国でみると、出生数の四分の一の数だ。

 妊娠が分かりながら、産むか中絶するかで迷ったり、誰にも相談できず中絶したりするケースも少なくない。熊本市の慈恵病院が準備を進める赤ちゃんポストには、こうして失われる命を減らそうという狙いもある。

 実はユキコさんも初期中絶を経験した。高校三年の時だった。中退し出産することも考えたが「子どもを養育できる仕事に就けるのか自信がなかった。ほかに選択肢はありませんでした」。助産師を選んだのは、一人でも多くの母親に生まれてくる命を届けたいと思ったからだ。

 「赤ちゃんポストで救われる人もいるはず。ポストは捨て子助長と言うけど、捨てるために、自分のおなかで十カ月も育てきれる母親がいるでしょうか」

 ただユキコさんは、命の重みが薄れてきている気がするという。避妊の説明の時はうわの空で、何回も病院で人工妊娠中絶する高校生、「あす仕事だから、早く済ませて帰りたい」と平然と話す会社員…。そんな人が出産しても赤ちゃんは幸せだろうか、とふと思う。

 「中絶は必ずしも『悪』ではない。産まない選択もある。でも中絶で失われる命のことを、女性も男性も心に留めてほしいんです」(文中仮名)

読者の意見

 「初ひ孫は421グラムで生まれたが、その姿は完全に人間だった。どんなに小さな命であっても、生まれて生きる権利がある」(菊池郡菊陽町、主婦、67歳)

 「人は受精した時点で生まれる権利があるはず。産まないなら避妊するのが当然で、その認識の欠如が最大の問題。堕胎を安易に認めた今の日本を考え直す必要もある」(山鹿市、無職・男、75歳)

(熊本日日新聞2006年12月10日付朝刊)

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