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欧州で広がる “命のポスト”
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捨て子救う“次善の策”
歴史800年、根強い反論も
熊本市の慈恵病院が設置を計画している「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」は、欧州では八百年以上の歴史を持つ捨て子対策の一つだ。近代に入り、子捨てを助長するなどの理由で廃れたが近年、移民などの間で捨て子が増加、有効な対策がない中、ドイツやイタリアなどで相次いで復活。生命を救う「次善の手段」として静かな広がりを見せている。
ベルリンで赤ちゃんポストを運営する聖ヨゼフ病院のキアラ・リピンスキ理事
ドイツでは一九九九年、北部ハンブルクでごみ容器などに放置された五人の赤ちゃんのうち二人が死亡したのをきっかけに復活した。社会福祉団体などが暖房装置付きの新型「ポスト」を開発し、翌年四月に設置。一カ月後に最初の赤ちゃんが入れられ、その後の五年間で計二十二人の命を救ってきた。
ドイツでも「ポスト」が合法か違法かをめぐる解釈は、いまだ明確な決着を見ていない。「子供は自らの出自を知る権利があり、親には養育義務がある」などの反論は根強い。しかし「赤ちゃんを救う他の方法があるのか」(ベルリンの病院理事)などと各地に広がり、正確な統計はないが、現在、全国で八十カ所以上にあるといわれる。またロイター通信によると、ドイツ以外にもスイス、オーストリア、ベルギー、ハンガリーなどでも設置されている。
「ポスト」の原形である「ルオータ」制度を持つイタリアでは、ファシズム時代にいったん廃止されたものの、九三年に北部アオスタに設置されたことで復活。昨年十二月にはローマの病院に「ポスト」が設けられ、今年二月に最初の赤ちゃんが入れられた。
ピサ高等師範学校のアドリアーノ・プロスペリ教授(宗教改革史)によると、ルオータが爆発的に増えたのは十六世紀後半、宗教改革に反発したカトリック教会が婚外子を違法とし、妻以外の女性に子供を産ませた貴族などの捨て子が増大したためという。
しかし、一九二三年、独裁者ムソリーニが家族重視のファシズムに反するなどの理由で廃止した。(ベルリン、ローマ共同=永田正敏、宇野隆哉)
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独でポスト運営の病院理事 「死避ける選択肢を」
ベルリンで「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」を運営するカトリック系の聖ヨゼフ病院のキアラ・リピンスキ理事(看護担当)は、ポストが子捨てを助長するとの批判に対し「では死を待てと言うのか。ほかに選択肢はあるのか」と問い掛けた。(ベルリン共同=永田正敏)
ベルリンの聖ヨゼフ病院に設置された「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」で、内側のドアを開けて赤ちゃんの人形を取り出す病院スタッフ(共同)
―設置のきっかけは。
「二〇〇一年にベルリンで四人の赤ちゃんがごみ箱などに捨てられる事件があった。母親が極限状態に追い込まれたことを意味し、母親の不安解消のために踏み切った」
―赤ちゃんはどう扱うのか。
「必要な治療をした上で、数日中に養子を希望する人に引き渡す努力をする」
―引き取り手は。
「希望者のリストは長い。養父母は当初の一年間はいわゆるフォスター・ペアレント(里親)として養育、その後に法的な養子関係が成立する」
―子捨てを助長するとの批判がある。
「女性にとって新生児を捨てるのは容易ではない。最も重要なのは彼女が赤ちゃんをポストに入れたことで、少しでも生き延びてほしいと望んだということだ」
―法的な問題は。
「法的には灰色のゾーンだ。しかし極限状態でほかに選択肢があるだろうか。死を選べということだろうか」
―母親への配慮は。
「ポストを必要とする母親の多くは低所得者。未婚で妊娠することが死刑宣告と同じ意味になることもある。ポスト内にはロシア語、ポーランド語、トルコ語でも気が変われば赤ちゃんを取り戻すことができると書いた手紙を入れている」
―このまま続けるか。
「命を救うには、ほかに方法がない。問題は法的規制からポストを宣伝できないことだ。カウンセリングのための電話番号を記したビラを学校やスーパーで配りたい」
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イタリアとドイツの病院 6カ国語で呼び掛け 母親助けるため設置
二月二十四日午後九時半。ローマ・カジリーノ病院のナースステーションでアラームが鳴った。昨年十二月、病院の玄関に設置した「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」が初めて作動したのだ。赤ちゃんは生後三、四カ月の男児。ただちに検査を受け、当直医の名前をとってステファノと名付けられた。
「あの時は病院中が喜んだよ。小ぎれいな服を着ており、母乳で育てられていたことがすぐに分かった。親に愛されていた子だと思う」と乳児科医長のパオリッロ医師。
「ポスト」の仕組みは簡単だ。外から窓を開け、暖房装置の付いたベビーベッドに赤ん坊を入れるとセンサーが感知しアラームが鳴る。医師や看護師が一分以内で駆け付けてくるが、中からは誰が入れたか分からない。
病院はローマ市の東端近く、所得が低く移民の多い地域にある。同病院で扱う年間二千件の出産のうち37%は外国人。ローマ市のあるラツィオ州平均(19%)の倍近い。
「赤ちゃんを捨てずにわたしたちに預けて」。「ポスト」が設置された病院内の建物には移民の利用を想定し、イタリア語だけでなく、中国語や英語など六カ国語で呼び掛けが書かれている。
一年半前、道端のトラックの上に赤ちゃんが放置されていた事件が設置のきっかけとなった。病院内に抵抗はなかったという。イタリアでは妊娠中絶を防ぐ目的で母親の養育義務放棄が認められておりこの病院でも過去三年で二十八人の母親が身元を明かさないまま出産、赤ちゃんを養子に出した経験があるためだ。
ANSA通信によると、イタリアには一九九三年の復活後、計八カ所に「ポスト」があるが、今回のカジリーノ病院の例が初の利用。ほかは修道院や慈善団体の運営で、パオリッロ医師は「病院だと赤ちゃんをすぐに見てもらえるという安心感があるのでは」と指摘する。
一方、二〇〇一年八月にポストを設置したドイツの首都ベルリン南部のカトリック系民間病院「聖ヨゼフ病院」のキアラ・リピンスキ理事は「極限に追い込まれた母親を助けるため設置を決断した」と強調する。今では市内四カ所に設置され、計二十人の命が救われ、すべて養子として無事巣立った。
ドイツではポストについて「育児支援で絶望した母親を助けるべきだ」(元ベルリン市議)という倫理的な反発や法律論による反対も根強い。 (ローマ、ベルリン共同)
(熊本日日新聞2007年3月9日付朝刊)
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