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命の出発点(中) 仕事に追われる妊婦 深夜帰宅、残業続きの末…
重い障害を持った子どもに話し掛ける母親=熊本市の江津湖療育園
 熊本市画図町の重症心身障害児施設「江津湖療育園」。同市の公務員、京子さん(35)=仮名=はベッドに寝ている二男の手を握った。もうすぐ九歳になる。生まれた時から目が見えず、人工呼吸器を着けて寝たきりの状態が続いている。「こんな状態だけど、この子は一生懸命に生きている。その姿が私にとって大きな励み。ただ、こんな現実があることを、多くの人に知ってもらいたい」

 緊急手術

 「おなかの中の赤ちゃんが動いていない」。一九九九年三月十四日昼、妊娠中の京子さんは体の異常に気付いた。かかりつけの病院で診てもらうと医師は慌てた。「ここでは対応できない」と、県内で最も施設が整った熊本市民病院(同市湖東)に救急車で運ばれた。看護師から「緊急手術になります」と聞かされたとき、意外にも内心ではホッとした。「ああ、これで仕事を休める」

 この二カ月、残業が続いていた。年度末と同僚の長期出張が重なり、仕事の量は二倍になっていた。帰宅が深夜零時を過ぎることも多い。妊娠中の体にはきつかったが、「仕事を終えないといけない」という義務感が先に立った。上司から「できるか」と聞かれると、「できます」と答えた。

 出産予定日は五月上旬。「産休に入ると周囲に迷惑を掛けることになる。その分も頑張っておかないと」。周囲には雑用も頼まなかった。

 定期的な妊婦健診では「異常なし」だったが、普段は九〇しかない最高血圧が、いつの間にか一三〇になっていた。体の疲れは、自分ではなく赤ちゃんを襲った。

 「あきらめよう」

 緊急手術を受けた日の深夜、麻酔から目が覚めるとベッドの横に夫がいた。「男の子だったよ。体重は千三百グラム。少し小さい」。夫の表情はとても硬かった。やがて「今回は、あきらめよう」と語った。

 翌々日、赤ちゃんに会うため新生児集中治療室(NICU)に行った。保育器の中のわが子は両手に納まるほど小さく、全身が腫れている。人工呼吸器や手足に着いたチューブが痛々しかった。「子どもさんは今、脳内出血を起こしています。助かっても重い障害が残る可能性があります」と医師が説明した。

 頭の中が真っ白になった。「私のせいだ。どうしよう。取り返しのつかないことをしてしまった」。その日からしばらく、泣き続けた。

 二男は数回の命の危機を乗り越えながら成長している。初めて屋外に出たときに、風を肌で感じてびっくり。大きな音がすると、またびっくり。最近は表情も豊かになった。京子さんは職場の妊婦が無理をしないように気を配るようになった。「妊娠は一時的なこと。職場に迷惑を掛けても気にしないでほしい。周囲の人も温かく見守るべきです」(梅野智博)

 (熊本日日新聞2008年1月28日付朝刊)
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