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| 命の出発点(上) 「飛び込み出産」の現実 母子に死の危険も |
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| 手術室の隣の部屋で手術台の準備をする医師と看護師。飛び込み出産などの緊急手術が続き手術室が空かないこともある=熊本市の熊本赤十字病院
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妊娠と出産。子どもの命の出発点で今、混乱が起きている。医師の診察を全く受けずに臨月を迎える母親。妊婦に長時間労働を強いる職場環境…。赤ちゃんの生命が危険にさらされることもある。熊本市の慈恵病院が昨年五月から運用している「こうのとりのゆりかご」が発信する問いかけをもとに、企画「子ども今 ゆりかご発」を始める。連載第一部「命の出発点」は、周産期医療の現場から子どもの命を考える。(梅野智博)
二〇〇七年十二月下旬の夕方、熊本赤十字病院(熊本市長嶺南)産婦人科部長の中村直樹医師は緊張した表情で手術前の女性に話し掛けた。「全力を尽くします。しかし、大きな危険があることも覚悟してください」
女性は産婦人科を受診したり妊婦健診を受けたりしたことがないまま、臨月を迎えていた。妊娠何週目かは不明。胎児は千九百グラム前後と推定されていた。母子の詳しい状態が分からずに出産する。その危うさから医療関係者からは「飛び込み出産」と呼ばれている。「経済的に苦しくて健診を受けない人が目立っている。その女性も、そんな人の中の一人」と中村医師。
■ギリギリの対応
女性は、その日の午後に強い陣痛に襲われ、最初は救急車で近くの産婦人科医院に運ばれた。診察した医師は驚いた。子宮破裂の兆候があり緊急手術が必要だ。しかし、胎児はとても小さい。子どもの命を守るには、未熟な新生児を育てるための特別な保育器が欠かせない。
医師は急いで同病院に連絡した。しかし手術室は空いておらず、保育器もすべて埋まっていた。時間に余裕はない。医師は「もう患者を送った」と切羽詰まった口調で告げた。
中村医師は別の緊急手術を終えたばかりだった。女性が運び込まれると陣痛を抑える薬で時間を稼ぎ、手術室の準備をした。保育器も、小児科医が最も状態がいい赤ちゃんを別のベッドに移して空きを確保した。すべてがギリギリの対応だった。「母も子も死亡する可能性があった」。中村医師は振り返った。
■胎児に感染症も
県外では昨年、健診を受けていない妊婦の容体が急変し、受け入れ病院が見つからないまま死産するケースが起きている。県内でも、妊娠初期に健診を受けなかったために性感染症を発見できず、胎児に感染した例がある。
手術は無事に終了し、女性は一週間後に退院した。見送りのとき、中村医師は「偶然助かったと思ってください。その事実を真剣に受け止めてください」と語りかけた。
同病院はその後一カ月足らずで、新たに二人の「飛び込み出産」を引き受けている。いずれも母子とも無事だったが、中村医師の危機感は強い。「お産は、命懸けであることを理解してほしい。自分や子どもの命を守るために、必ず健診を受けてほしい」
(熊本日日新聞2008年1月26日付朝刊)
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