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| 尿失禁にボツリヌス毒素 膀胱の収縮を抑制 |
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ボツリヌス菌の毒素から作った製剤を膀胱(ぼうこう)に注射して、脊髄(せきずい)損傷による深刻な尿漏れを改善する治療法が効果を上げている。ボツリヌス毒素が、膀胱の収縮を抑制するためで、通常の薬物治療が効かない非神経性の尿失禁患者への応用も始まっている。
ボツリヌス菌は土壌の中で生息する嫌気性細菌で、食中毒の原因菌になる。菌が排出する毒素は、神経末端から神経伝達物質のアセチルコリンが分泌されるのを妨げ、筋肉の収縮を抑える。
この作用を生かして、眼瞼(がんけん)けいれんの治療や、美容分野のしわ取りなどで使われている。眼瞼けいれんは、目の周りの筋肉が過度に収縮し、目が自分の意志に反して閉じてしまう病気だ。
ボツリヌス毒素を使った尿漏れ治療は、鳥取大付属病院(鳥取県米子市)の宮川政男教授(泌尿器科)が二〇〇二年に国内で初めて手掛けた。スイス・ルツェルン州立病院の女性泌尿器科医師が世界で初めて試みた。車いすの脊髄損傷患者が、尿失禁で苦しんでいるのを多数診察しているうちに、毒素を筋肉に注射すると膀胱が収縮しなくなり失禁が治ると考えて実施。二〇〇〇年、その臨床結果を米国泌尿器婦人科学会で発表した。
膀胱は収縮すると、尿は出なくなる。しかし患者は、脊髄損傷して下半身まひなどになっているため自己導尿している人が多く、そう大きな問題にはならないという。
■効果は半年―9カ月
治療は、局所麻酔後、まず尿道から膀胱に内視鏡を挿入。膀胱壁の内側三十カ所にボツリヌス毒素を注射する。四日―五日経つと、筋肉が収縮しなくなり、効果は半年から九カ月間続く。効果が薄れてきたら同じ治療を繰り返す。筋肉が緩む結果、尿が貯まっても、膀胱内部の圧力が高くなりにくくなるため、腎不全も予防する。
欧州での臨床試験では、試みた脊髄損傷患者のうち96%で効果が確認された。欧米では脊髄損傷患者にとどまらず、尿意を突然がまんできなくなる一般の尿失禁患者にも既に広く試みられている。
■岡山大では独自開発も
こうした非神経性の尿失禁患者は、脊損患者と違って自己導尿していないため、注射量が多いと毒素が効きすぎて排尿できなくなってしまう。このため注射する毒素の適量と尿失禁の症状の程度とのバランス調整が難しくなる。
宮川教授らによると、薬物療法が無効だった高齢の女性患者五人に対し脊損患者に注射する量の三分の一の量に減らして注射したところ、尿失禁は治癒して排尿もスムーズだった。ただ男性には前立腺肥大症との絡みから治療していない。
この治療法は、筑波大付属病院(茨城県つくば市)や岡山大付属病院(岡山市)などが手掛けるなど普及し始めている。岡山大付属病院は、注射するボツリヌス毒素を独自に開発し脊損患者を対象に実施している。将来は非神経性の尿失禁患者にも拡大するという。熊本大付属病院(熊本市)はボツリヌス毒素製剤の安定確保のメドがたったら手掛ける考え。
高齢化社会が進行し、女性のみならず、男性への治療法も確立すれば、対象になる患者が爆発的に増えるとみられる。
(熊本日日新聞2006年10月4日夕刊メディカル)
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