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難しい意思確認 提供する「権利」生かして
くまもと腎移植最前線<下> 
 日々、救急外来が運び込まれる熊本赤十字病院。脳死状態を経て亡くなる人は、年間五十人以上に上る。九州では九州大に続いて二番目に腎移植が多い病院だが、脳死状態での腎臓の提供は皆無。心停止後の腎提供が過去十年で一件あるだけだ。

臓器移植への理解を呼び掛け、意思表示カードを配布する街頭キャンペーン。臓器提供者となる患者側の意識の変革が求められている=10月1日、熊本市新市街
 血が通った温かい体のままの脳死状態では、家族が臓器提供を拒むケースが多い。全国でも一九九七(平成九)年の臓器移植法施行以降、脳死状態からの移植は四十七件しか実施されていない。脳死、心停止後など死体からの腎臓提供が進まない背景には、医療現場での意思確認の難しさが挙げられる。

  保険証活用

 同病院脳神経外科部長の三浦正毅医師(52)は「治療に当たっていた医師が突然、臓器移植の話を持ち出せば、『さじを投げた』と思われる。特に、救急で運び込まれて家族が動転しているケースでは、トラブルになりかねない」と打ち明ける。

 死後の臓器提供に同意するかどうかを記す意思表示カードの普及率は県内で8.4%。ただ、患者が仮にカード所持者でも、治療に望みがなくなった時点で医師がカードの所持の有無を尋ねるのははばかられるという。カードの普及率が伸び悩む上、意思表示カードが移植に必ずしもうまくつながっていないのが現状だ。

 そんな状況を打開しようと、厚生労働省は来年一月から、中小企業のサラリーマンやその家族ら約三千六百万人が加入する政府管掌健康保険の保険証裏面に、臓器提供の意思表示欄を設けることを決めた。受診時に提示する保険証に明記することで、確認しやすくする。既に一部の自治体や民間企業の健康保険組合で意思表示欄を設けているところもあり、効果が期待されている。

  「助かる命」

 また、九州では宮崎県や福岡県が二〇〇五年度から、患者の死亡前に臓器提供の意思を家族に確認するパンフレットを作製。腎臓提供数が年間二〜三件だった福岡で〇五年が七件、〇六年が八月までで七件と倍増。腎臓の提供が皆無だった宮崎県でも〇五年二件、〇六年三件となった。行政機関のパンフレットを使うことで、現場の医師も比較的、家族に提示しやすいという。

 ただ、熊本県の薬務衛生課などが県内のある病院にパンフレット配布を提案したところ、「とんでもない」とはねつけられた。治療に当たっている医師にとって、手のひらを返したように臓器提供を持ち掛けることへの抵抗感は根強い。

 三浦医師も「受け手側の意識が変わらないことには、現場で意思確認しにくい事情に変わりはない」と話し、パンフレット提示はあくまで「ケースバイケース」と慎重だ。

 県移植コーディネーターの西村真理子さん(44)は訴える。「臓器提供は義務ではなく、人を幸せにできる『権利』ととらえてほしい。行政はその権利を最大限生かさなければならないし、意思を無駄にしないシステムをつくるべきだ。一つの臓器で、助かる命があるのだから」(福井一基)
 
(熊本日日新聞2006年10月17日付朝刊)
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