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もう一度、健康な体に 登録で必要伝えたい
くまもと腎移植最前線<上> 
 教室ほどの広さの部屋で、熊本市本荘の自営業福田卓司さん(49)は、腕に管を通した状態で横になっていた。ほとんどの患者が週三回、五〜六時間ずつ過ごす「透析室」だ。福田さんは「平均寿命まで生きるとして、あと二十数年。人生の三分の一をこんな状態で過ごすのは、大変」と苦笑いする。

透析を受ける福田さん。「これから先、何十年も透析を続けることを思うと大変だ」と移植ネットワークに登録する予定という=熊本市
 四十一歳のとき、糸球体腎炎で倒れた。透析を続けて八年目になるが、腎移植を受けるための登録はまだしていない。「腎臓提供が少ない中、自分に腎臓が回ってくる確率はわずか。僕だけでなく、どうせだめだとあきらめてしまっている人は多い」

 全国で26万人

 腎不全で透析を受けている患者は全国で約二十六万人、うち日本臓器移植ネットワークに登録している待機患者は約一万二千人。これに対し、全国の腎移植は毎年、約九百件。そのうち心停止、脳死後など死体から提供してもらう献腎は約百五十件で、ほかは親族間の生体腎移植だ。腎臓を提供できる親族がいない患者は献腎を期待するしかないが、その確率はほぼ百人に一人となる。

 県内では昨年、熊本赤十字病院で八件、熊大付属病院で一件、済生会病院で一件の腎移植手術が実施されたが、うち献腎は三件にとどまる。やはり主流は生体腎移植だ。

 学会では「例外」

 しかし、日本移植学会の倫理指針は、生体腎移植を健康な臓器提供者(ドナー)の体を傷つける行為で「本来望ましくない」とし、「例外的」にしか認めていない。現状では、本来望まれる死体からの移植と例外の生体腎移植が逆転してしまっている。

 生体肝移植を手掛ける熊本大小児外科の猪股裕紀洋教授は、献腎が伸びない原因を日本人固有の死生観に起因するとみる。「他国に比べ日本の生体移植の多さは特異なくらい。人は死んだ後も魂が存在すると思い、遺体を傷つける行為を受け入れることができないため、献腎が伸びない」と指摘する。

 県内待機は150人

 透析患者でつくる県腎臓病患者連絡協議会の会員が約二千五百人いることを考えれば、県内の待機患者が百五十人とはいかにも少ない。

 八年間、透析を続けてきた福田さんだが、最近ようやくネットワークへの登録を考え始めている。「登録しなければ、需要があること自体が世の中に伝わらない」と思うようになったからだ。ただ、福田さんがこれから登録しても、移植が何年後になるかは分からない。

 それでも、福田さんは望みをつなぐ。「死を覚悟したこともある。でも移植という手段が残っている限り、もう一度、健康な体を取り戻したい」

     ◇    ◇

 愛媛県宇和島市で起きた腎臓の臓器売買事件は、臓器の絶対数が不足する貧困な移植医療の現状を浮き彫りにした。臓器移植への社会的な理解は低く、心停止後や脳死後の腎臓提供はいまだ少ない。本来、例外的措置とされる生体腎移植に踏み切る親子、違法な手段で海外移植を受ける患者など、困難な移植に望みを託さざるを得ない状況が続く。移植医療が直面する課題を県内の最前線からリポートする。(福井一基)

 (熊本日日新聞2006年10月15日付朝刊)
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