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| 病院と患者 トラブルを「仲介」 医療メディエーター導入 |
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患者・家族と医療者との間のトラブルを中立的立場から解決を図る医療メディエーター(仲介者)が関心を集めている。医療ADR(裁判外紛争処理)の一つで、先駆的に取り組むのが東京都葛飾区の医療法人・新葛飾病院(清水陽一院長、176床)。別の病院で起きた医療事故の被害者遺族を専任の安全対策担当者に採用、患者の心情を理解する対話重視の姿勢が注目されている。(高本文明)
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| 医療ADR(裁判外紛争処理)の研修会で、元判事の稲葉一人さん(右端)とともに、医療者の責任について話し合う新葛飾病院の職員。左端が豊田さん=東京・新葛飾病院からだ学習館 |
7月20日夜、同病院のからだ学習館に、医師や看護師ら職員20人が集まった。4月から毎月開いている医療ADRの研修会だ。テーマは「組織と個人」。「トラブルが起きたとき、一人の人間としては謝りたいが、組織の立場を考えると、簡単には認められない。葛藤(かっとう)を感じる…」。参加者は悩ましい思いを語り合った。
研修会の企画・運営は、医療安全対策室セーフティーマネジャーの豊田郁子さん(38)。一歩間違えれば事故につながりかねなかった「ヒヤリ・ハット事例」などのリポートをとりまとめ、月1回の安全対策委員会(院長ら26人)で対策を話し合う。
▼ショックと憤り
豊田さんはさらに医療メディエーターとして、病院で起きたトラブルの仲介に入り、患者と医療者の対話を促す。軽微な事案を除き、これまで10件ほどあるという。患者が治療法に不満があれば、医師らとともに話し合いを重ねる。
「最初は、患者さんから、なぜこの人が話に加わるのかと思われた」と豊田さん。「裁判を起こすぞと、ものすごい剣幕で怒る患者もいる。でも、病院の姿勢や院長の思いが分かると、許せない気持ちが残りながらも、医療者を応援しようという気持ちになってもらえたりする」と手ごたえを語る。
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| 3年前に長男を医療事故で亡くし、現在は新葛飾病院の安全対策担当者として活動する豊田郁子さん |
豊田さんは2003年3月、長男(当時5歳)を同区内の総合病院で、誤診や引き継ぎミスで亡くした。腸閉塞だった。ショックと憤りに震えたが、当時、別の病院の事務職だった豊田さんを、医療者の同僚が支えてくれた。たらい回しに遭い手遅れになった乳児、激務で自殺した小児科医…。医療の現場で起きたさまざまな死も知り、遺族らとも出会った。
医療に傷つけられ、医療に救われた豊田さん。被害者支援の活動にかかわるうち、清水院長と知り合い、04年10月、安全対策室の設置に伴い採用された。
「医療者には、心から謝りたいと思っていても、組織の中で苦しむ人もいる。一方で、事故後に病院が安全対策を採っているのに、知らされないまま、ずっと苦しい思いを続ける被害者もいる」「対話を重ねれば、患者と医療者がお互いに気づき合うことも多い。悲劇を繰り返さないためには、何よりも医療の安全を念頭に置かなければならない。責め続けるだけではいけない」
同病院は、葛飾区の中核病院で急性期医療に対応。心臓手術件数で全国ランキングの上位にある。これまでも被害者に正面から向き合ってきた。05年2月に行った研修会では、同病院でインフォームド・コンセント(十分な説明と同意)を欠いたまま、亡くなった七十歳代の男性患者の遺族を講師に招いた。豊田さんが説得した。
遺族は「この病院で“犯罪”が行われ、おじいちゃんの生きる尊厳が無視された」と語りながらも、「院長がすぐに謝罪し、再発防止に取り組む姿勢が伝わった。豊田さんの採用に“本気”を感じた」と話したという。職員らは重く受け止めた。
▼米国の「謝罪運動」
医療メディエーターは、医療過誤訴訟が頻繁に起きる米国で数年前にスタート。訴訟にかかる損失を減らそうと、「ソリー・ワークス」という謝罪運動も始まっている。日本のメディエーターは、豊田さんのように、患者により近い立場で話を聞く存在で、広島県呉市の呉医療センター、福井県福井市の福井総合病院などが配置。第三者機関の日本医療機能評価機構や大阪大などが養成を進めている。
厚労省は05年6月、医療安全について患者参加の推進を強調する報告書をまとめた。しかし、被害者を招いてまで学ぼうとする病院はまだ少ない。
▼元判事も支援
豊田さんは「法的な責任を追及するだけでは解決できない患者の心に寄り添うべきだ。患者の声をこれからの医療制度に生かしてほしい」と強調する。人材を養成できても、院内で孤立しては負担を強いることになりかねない。
ADRに詳しく、同病院を支援する稲葉一人・元大阪地裁判事は「一般に、患者に対する謝罪や責任の内容、意味、対象が医療者側にはよく分かっていない。まず、だれもが悩みを抱えているという共通感覚をもってもらいたい」という。
清水院長は「現場はすぐに変わるものではないが、医師をはじめ職員の意識を変えていきたい」と話している。
(熊本日日新聞2006年8月20日付朝刊「サンデー特報」)
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