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救急現場 増える患者、受け入れ限界
ルポ地域医療第1部 医師が足りない(1)
 午後八時前。緊急手術室で、手に大けがをした男性の手当が行われている。ベッドには高熱の女性、別のベッドに震えが止まらない女性、骨折した子ども…。救急隊の専用電話が鳴る。受話器を取った医師が症状、意識のレベル、年齢などを聞き、ホワイトボードに書き込む。医師の視線が集まる。「二十分後にバイク事故の男性!」
12時間勤務が交代する午後8時。患者の経過や状態、空きベッドの状況などを交代する医師に引き継ぐ=熊本市の熊本赤十字病院
     

 熊本赤十字病院(熊本市長嶺南)の救命救急センター。五人の専従医が十二時間交代で勤務、若い研修医や夜は当直医も交え、二十四時間体制を組む。重症から軽症まで、あらゆる救急患者を初期診療、各科の専門医につなぐ。

 事故の男性が運ばれてきた。この日のリーダーは奥本克己医師(40)。内臓損傷はないか診察する若い医師を見守り、アドバイスする。次は骨折の有無だ。

 高熱の患者は詳しい検査で、肝臓に病巣が見つかった。悪化の恐れがある。消化器科の医師が呼び出される。

 別の病院から患者の病状悪化で転送要請。同じ消化器系で緊急処置も必要だ。医師は「受け入れれば待たせる。逆にマイナス」と判断、「別の病院をあたって下さい。だめなら再度連絡を」。

 時間外の外来患者も次々。午後十時前、待合室は昼間のように込み合ったまま。待ち時間表示は内科一時間、外科一時間半、小児科二時間。

 センターの昨年度の急患は約五万七千人。十年前より二万人も増えた。救急車受け入れも約五千四百人と増加傾向だ。一日平均では、百五十人が受診し一割が入院、救急車で十五人受け入れ半数が入院、緊急手術が三件。病院は四百八十床だが、千床近い施設の受け入れと匹敵する。

 「限界を超えている。“断らない”が原則だが空きベッドがない、処置が重なるなどで受け入れストップもある」と救急部の井清司部長(58)。他の救命救急施設も同じ悩みを抱える。

 何とか五人の専従を確保、十二時間交代が組めたが、施設によっては、日勤からそのまま当直に入る三十六時間勤務のローテーションも多いという。奥本医師の場合、この日の勤務は午後八時から翌朝までだが、実際には残業にカウントしない会議などが朝から続いた。

 急患の八割は軽症で、入院は不要。本来の救急医療の妨げともなりかねず「コンビニ受診」という言葉もある。

 奥本医師は「患者には深刻な不安、痛みがあるから」とこの言葉に疑問を抱く。「軽症に見えても、重い病気が潜むことがある。それを見逃さず拾い上げる。救急は若い医師の勉強の場」。

 しかし、短時間で次々に判断を迫られる現場は過酷だ。医師は、医療には限界がある、不確実でもあると言うが、患者側の期待は100%。ちょっとしたことがトラブルに発展しかねない。「問題が起きやすいのは疲れ切った医師が患者と向き合う時。もう少し余裕がないと、医療の質も上がらない」とも。

 救急救命士の指導、災害に備えた訓練。救急部の範囲は拡大し、過密感を強める。

 「救急は医療の原点。突然の、未知の事態に冷静に対応する。研修を希望する若い医師も多い」と井部長。しかし、「実際は過酷過ぎて、長く続かない」。発足時の五人のスタッフのうち、今も残るのは二人。命の最後のとりでさえも、基盤が揺らいでいる。

     

 救急、小児科、産婦人科などで医師不足が深刻だ。「医療崩壊」を懸念する声もある。何が起きているのか、現場から地域医療の未来を探る。

 (熊本日日新聞2008年5月30日付朝刊)
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