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| 書評 「医療 崩壊か再生か」(小川道雄著) |
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『医療崩壊』。虎の門病院泌尿器科部長・小松秀樹氏のベストセラーで、この言葉は瞬く間に全国に広まった。医療事故を裁いた判決の理不尽さ、それを検証せずに追随するマスコミの報道姿勢を批判。病院勤務医の過酷な労働実態を明らかにし、医療の現状を突きつけた。
本書は、医療が崩壊状態に追い込まれた原因を「医師の絶対数不足」と断定。全国の医学部定員を一・五倍にすべきと訴え、今の医療政策が続けば急性期医療はある日突然、崩壊すると警告する。
著者は阪大病院や熊本大病院で外科医として臨床現場に立ち、後進を育てた。その外科理論は“小川外科”と呼ばれ、信奉者も少なくない。筆が立つ医師としても知られる。本書もかみ砕いて書き、読み易くしている。
新しい病院に赴任する際、著者は私服で時間外に救急室を訪れるのを習わしにしていた。ある病院で母親が「夜はいいねぇ、涼しいし待たなくていいから」と子供に話し掛けているのを耳にした。思わず「なぜ昼間に来ないか尋ねた」という。
一方で救急を廃止すると労働条件が改善され、収入増になる医療制度にも矛先を向ける。ある病院で、大学病院の医師引き上げを機に救患の受け入れをやめたら赤字が激減した。病院は、余裕ができた看護師を病棟に回し、高い看護料を取り赤字解消をもくろんだ。
救急医療の弱体化が脳死臓器移植が進まない原因、という指摘は目新しい。臓器移植を橋渡しする移植コーディネーターが入る前に、医師が患者の家族に時間をかけて脳死になりつつある状態や今後の処置を何度も説明する。その過程で臓器移植の話もできる、と著者は言う。ところが法的な脳死判定に割く医療従事者の人的余裕がないため、移植の話まで踏み込めない。
次の選挙で医療に対する国民の選択が最大の争点であることを願う。「あとがき」のこの一文に本書の狙いが凝縮されていると考えたい。評・南里秀之(熊日編集委員)
(熊本日日新聞2008年6月29日付朝刊)
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