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混乱する「後期高齢者医療制度」
熊本大医学部付属病院 菊池健准教授に聞く
後期高齢者医療制度について語る熊本大医学部付属病院の菊池健准教授=熊本市の同病院
 ◇きくち・けん 1952年生まれ。青森県出身、東北工業大卒。85年に米国系マニュファクチュラース・ハノバー銀行東京支店システム課マネジャー。独系や豪州系の銀行に勤務後、2004年、バイエリッシェ・ヒポ・フェラインス銀行東京支店コンプライアンス・ジェネラルマネジャーから熊本大付属病院助教授に。08年3月から現職。
 1日から始まった75歳以上を対象にした医療保険「後期高齢者医療制度」(長寿医療制度)の混乱が続いている。制度の周知が遅れ「保険料はいくらになるのか」といった問い合わせも相次いでいる。制度が抱える問題点を含め、熊本大医学部付属病院の菊池健准教授(医療情報・医療経営学)に聞いた。(田端美華)

 ―新制度の導入をどう見ていますか。

 「移行は早すぎ。新制度は年齢で明確に区切りを付け、七十五歳以上の人たちには個人負担がかかることになっている。政府の広報などを見ると、現役世代と高齢者の費用負担が不公平だと説明している。しかし、厚生労働省の調査によると、七十五歳以上の七割強が年収二百万円以下という統計がある。こういった人たちから一律にお金を取る制度が不公平を是正することになるのか疑問だ」

 ―導入に向けた周知が不足したようですね。

 「周囲の七十五歳以上の人たちに話を聞いても制度について『まったく分からない』と言う人が多い。政策を議論した時に、七十五歳以上の人たちの意見を聞き、生活実態を確認し考慮したか、と疑いたくなる。広報パンフレットを見ても、高齢者に分かるような書き方、伝え方をしていない。結果として国民的議論を抜きに突っ走っている」

 ―制度内容をどう見ていますか。

 「従来の老人保健制度で不明確だった現役世代と高齢者の保険料の負担状況を明確にしたことは評価できる。しかし、新制度は、抑制できない医療費は高齢者に負担してもらう仕組み。日本は欧州に比べ国民医療費の事業主負担の割合が低い。医療費増の主因である高齢者だけに負担を押し付けた印象がある」

 ―新制度導入の目的は増えるばかりの医療費の抑制ですね。なぜ抑制できるのでしょうか。

 「年金から天引きされ、自分たち一人一人が保険料を負担するということが目に見える。それに、二年ごとに改定される保険料は地域全体の総医療費が下がれば引き下げられ、個人負担が軽くなる。長い意味で、医療費抑制の動機付けになる。現実には生活費と医療費の切り詰めで生活の質を落とす人が多いだろう」

 ―診療報酬に変化はありますか。

 「『後期高齢者診療料』は、検査や診断、治療に対し定額制をとり医療費に制限を設けている。このため医療側の持ち出しとなる追加の検査や治療を抑えることになる。また『後期高齢者終末期相談支援料』も導入され、患者さんと終末期の診療方針を話し合って文書にまとめると、医療機関側に支援料が加算される。家族は手を尽くしてほしい意向が強く医療費が膨らむ一面があったが、これを抑えられるようになる。しかし、これは国民の総意だろうか」

 ―新制度の保険給付費は、国、都道府県、市町村の公費五割、現役世代からの支援金四割、後期高齢者の保険料一割でまかなわれています。今後の見通しを。

 「まず保険料が間違いなく上がる。新制度では、人口構成に占める後期高齢者と現役世代の比率の変化に応じて、高齢者と現役世代の負担割合を変えていく仕組み。後期高齢者の負担割合が現在の10%から二〇一五年度は10・8%になると公表されているが、一人当たりの保険料に換算した場合、一・四倍になることはあまり知られていない。今の現役世代もやがて後期高齢者として現在の倍以上と試算される保険料を負担することが現実的なのか。早晩、破たんする可能性がある制度施行は、拙速すぎた」

(熊本日日新聞2008年4月12日付朝刊)
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