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時の壁 カルテ廃棄で証明できず
裁かれる薬害肝炎・九州訴訟判決を前に(3)
 昨年五月。集団住民検診を受けた熊本市の女性(51)は、C型肝炎の検査結果に目の前が真っ暗になった。看護師の勧めで何気なく受けた検査。返ってきた通知には、ウイルスの陽性を示す「+」のマークが記されていた。

支援者らが開設した電話相談には、多くの相談が寄せられた=6月、熊本市
 精密検査を受けた。幸い慢性肝炎は発症していなかった。肝機能の数値も正常だった。ただ、若い医師が感染原因について漏らした一言が気になった。「恐らく止血剤だろう」。思い当たる節が一つだけあった。

 十四年前。熊本市内の病院で長男を出産した。出血がひどく、四月なのにぶるぶる震えたのを覚えている。母子健康手帳の出血欄には、「多量」に丸印がしてあった。「もしかして、あのとき、止血剤が使われたのでは」

 女性は病院に電話し、止血剤の血液製剤「フィブリノゲン」投与の有無を尋ねた。厚生労働省が二〇〇四(平成十六)年十二月に公表した同製剤の納入先に、その病院も含まれていた。だが、病院からは、「昔のカルテは廃棄して、分からない」という回答しか得られなかった。

 「『犯人』を突き止められず悔しい」。発症の不安を抱える女性は今年六月、薬害肝炎九州訴訟の支援者らが開設した相談会に電話を掛けた。いまだに感染源は分からないが、自分のことのように裁判の行方を見守る。

 八〇年以降だけでも、一万人以上が同製剤でC型肝炎に感染したとされる。しかし、〇二年に始まった訴訟の原告は全国でわずか百二十七人。カルテの保存期間五年という「時の壁」に阻まれ、投薬を証明できない患者が多いためだ。厚労省が公表した納入先リスト約七千医療機関のうち、約九割がカルテを保管していなかった。

 このため原告たちは、この訴訟に加われない被害者を含むすべてのウイルス性肝炎患者の救済を掲げ、国に検査・治療体制の充実、医療費の自己負担軽減などを求めている。

 「今の国の肝炎対策は不十分だ。裁判で国を動かしてほしい」。熊本肝炎患者会の浦田哲代表(56)=宇城市松橋町=は、毎回のように福岡地裁に足を運び、訴訟を支援してきた。

 浦田さんがC型肝炎と分かったのは〇一年。三年後には肝硬変に悪化して「余命一カ月」と診断されたが、長男からの生体肝移植で一命を取り留めた。その後、一年間のインターフェロン治療でウイルスが検出されないまでに回復した。

 浦田さんは、阿蘇にレストランを開く第二の人生を断念し、月七万円以上の治療費を捻出(ねんしゅつ)した。しかし、入院先で出会った患者の多くは、経済的な理由で、高額なインターフェロン治療をあきらめていた。

 「私のように助かる命もある。刻々と症状が進む患者を救う突破口に、判決がなると信じている」。浦田さんは、二百万人といわれるC型肝炎患者の思いを、訴訟に重ね合わせる。(渡辺哲也)

 (熊本日日新聞2006年8月27日付朝刊)
 

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