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よりよい医療現場願い 悩めるスタッフを支援
看護師の経験生かしコーチングを始めた芦村恵さん
 過去の気掛かりを解消していくのがカウンセリングなら、未来の自分や組織がどうありたいのか、そのためには今どうしたらよいのか、自分で答えを見つける作業をサポートするのがコーチング。コーチングをする人をコーチという。熊本市京町の芦村恵さん(46)はこのほど25年間続けた看護師を辞めた。医療関係者を対象にしたコーチングを始めるためだ。

パソコンに向かう芦村さん。実際のコーチングは、パソコンを使った会話か電話を通して行われることが多いという
 <コーチングは1990年代後半にアメリカから伝わった。ここ数年、日本ではコーチを採用する企業やコーチ認定を受けようとする人が増加。熊本でも管理職対象の研修会などが開かれている>

 昨年の秋ごろ、まだ看護師だった芦村さんは、肺炎で入院していた70代の男性患者が気になっていた。症状は改善に向かっているのに、ベッドから離れられないでいた。東京のセミナーに通って学んだコーチングの技術を使ってみようと、思い切って声をかけた。

 ―どうして歩かないんですか?
 
 「だって、安静にしとかんといかんとだろ」

 ―いつまでには退院したい?

 「今度の祭りまでにはしたい」

 ―そうするには?

 「点滴を外さんといかんね」

 ―点滴を外すには?

 「飯を食うようにせんと」

 ―食欲を出すには?

 「少し歩いて腹を減らせば食欲が出るかも」

 会話の後、男性は歩く距離を毎日少しずつ延ばすようになった。

     ◇     ◇

 天草の看護学校を卒業後、熊本市内の病院に就職。名のある病院で勤務しているプライドがあった。技術を磨くための勉強会にも積極的に参加した。ほとんどが病棟勤務。結婚、子育ての間も4〜5日ごとの夜勤。夫の両親の協力に感謝し続けてきた。

 何かが狂い始めたのは、勤務20年余りが過ぎたころ。業務に忙殺される毎日。人と接することが喜びであり、看護師を志した理由の一つだった。しかし、いつの間にか、患者が退院する日、かつてのような大きな感動がなくなっていた。「なぜあの人のように仕事ができないんだろう」と自分と他人とを比べ、「自分はだめだ」と自己否定を続けた。仕事を辞めることばかり考えた。気付かれないように努めたが、ひどく落ち込む日々。そんな時、かつてテレビで見たコーチングが自分を救うような気がした。

 コーチングとの出合いは素晴らしかった。「話を聴いてもらえた」「自分は自分でいいんだ」と思えるようになり、仕事を続ける気持ちが戻ってきた。

 コーチングを学ぶと、看護師ら医療スタッフが置かれている現状が、以前と変わっていることにも気付き始めた。看護師不足は進み、職場でのレクリエーションをする余裕がなくなった。看護計画、患者への聞き取りも詳細なものが求められるようになった。インターネットで情報を得る患者からの質問も鋭くなる一方で、休日の勉強会への出席も欠かせなくなった。手書きだった記録もデジタル管理となり、パソコンに打ち込む手間が増えた。

 21年前、長男を出産した時は、おなかが大きくても働いているのが普通だったが、妊娠を理由に辞める看護師が増えていた。「私も、いまの状態だったら辞めたかもしれない」と思う。「日常にゆとりがあれば、コーチングはいらないのかもしれない。医療現場は制度を変えないと変わらない。ならば現場スタッフの方が意識を変えて仕事に臨まないと、私のように心がしおれてしまう」

 大きな使命を感じた。コーチングとの出合いで、25年の看護師生活に達成感を感じることができた。職場でコーチングの技術を生かす選択肢もあったが、周囲の驚きや反対を振り切り、看護師を辞め、コーチングに次の人生を見出すことにした。

     ◇     ◇

  ダイエットコーチ、メディカルコーチ、管理職コーチ…。さまざまなコーチングが世に出てきている。熊本ではベテランにあたる、あるコーチによると、いまコーチだけの収入で食べていくのは「奇跡に近いこと」らしい。「コーチングで医療現場をよりよくできたら」と、芦村さんは大きな夢を抱えながら、付き合いのある病院や看護協会などに、ビラを配り始めた。「ビジネスというより、ミッション(使命)という感じ」。芦村さんがどれくらい活躍できるか。病院を利用する側としても、非常に興味をそそられる。(東寛明)

 (熊本日日新聞2006年10月29日付朝刊)
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