日本脳炎の予防接種を受ける幼児や児童が、二年前から大幅に減っている。国が「接種を勧めることを差し控える」方針を打ち出したことがきっかけだ。県内の小児科医グループは「日本脳炎は過去の病気ではない。その怖さを知ってほしい」と啓発ポスターを独自に作り、院内に張り出す準備を進めている。
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| 予防接種の前に、子供の様子を診察する原口洋吾医師=熊本市麻生田の「はらぐちこどもクリニック」 |
このグループは、熊本市やその近郊の小児科医でつくる芝蘭会(古瀬昭夫会長、約七十人)。同会副会長の原口洋吾医師(同市麻生田)は「最近、日本脳炎の予防接種が中止になったと誤解したり、副作用を過度におびえる人が増えている。そんな混乱が、さらに広がりかねない」と心配する。
■致死率2割弱
日本脳炎のウイルスに感染しても、ほとんどは発症しなかったり、軽い発熱で済む。だが「三百人から三千人に一人の割合で脳炎が起こる。そうなると二割近くは死亡すると言われる。治癒しても約半数は後遺症が残るなど、病気の行く末はとても悪い」と原口医師。
予防には予防接種が有効だ。対象は十二歳以下だが、接種を受ける子どもは激減している。熊本市保健所によると、同市では二〇〇四年度は延べ一万八千八百七十五人が接種を受けたが、〇五年度は同千五百七十一人に減少。〇六年度は未集計だが「〇五年度を下回りそう」(同保健所)という。
「〇五年五月に厚生労働省が出した通知が減少のきっかけになった」と原口医師は指摘する。
〇四年七月、日本脳炎の予防接種を受けた山梨県内の中学生が重症のADEMと呼ばれる脳脊髄(せきずい)炎を起こした。同省は翌年、「慎重を期するため、ワクチン接種を積極的に勧めることは差し控えるように」と市町村に求めた。
県内の多くの市町村がポスター掲示や広報誌などでのPRをやめた。行政の担当者の中にも「接種は中止になった」と誤解する人がいたという。
■県内で3人発症
そんな中、県内で昨年、三人の日本脳炎患者が出た。このうち一人は三歳児。未就学児の発症は全国でも十六年ぶりだった。「怖れていたことが起きた。県内の小児科医には大きなショックだった」と原口医師。
ポスターでは、日本脳炎の病状や県内の発生状況、ワクチンによるADEMの危険性、予防接種は現在も受けられることなどを説明する。ただ、予防接種を奨励する言葉は避けた。原口医師は「ワクチン接種でADEMが起こる
割合は百万人に一人。日本脳炎のリスクと比べると、はるかに低い。それでも国の方針には従わざるを得ない」と説明した。
一九五〇年ごろ、日本脳炎の患者数は全国で年間五千人を超えることもあった。予防接種が普及した九二年以降は年間十人未満にまで減っている。原口医師は、保護者に両方のリスクをよく説明して、接種を受けるかどうか選んでもらっている。(梅野智博)
●日本脳炎ワクチン
予防接種法が12歳以下を対象に接種を受ける努力義務を定めている。まれにADEM(急性散在性脳脊髄炎)などの副作用が出るとされる。化学及血清療法研究所(熊本市)などが、より副作用の少ない新型ワクチンを開発中だが、供給の見通しは立っていない。
(熊本日日新聞2007年4月21日付朝刊) |