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どう防ぐ新型インフルエンザ 国内の準備まだ不十分
国立感染症研究所 谷口清州・感染症対策計画室長に聞く
「新型インフルエンザの出現が間近に迫っている」と言われる。誰も免疫を持たない「新型」だけに、瞬く間に世界中でまん延する恐れも。1918年〜20年、世界で4000万人以上が死亡した「スペイン風邪の再来になる」と危ぐする専門家は少なくない。東京の国立感染症研究所、谷口清州・感染症対策計画室長に話を聞いた。(梅野智博)
◇たにぐち・きよす 医師(小児科)、医学博士。鹿児島市立病院、国立三重病院など10年以上の臨床経験の後、1996年に国立感染症研究所入り。WHO感染症対策部医務官を経て、2002年から現職。三重大卒。46歳。
「新型インフルエンザが世界的に流行すれば、わが国は国境封鎖も検討している」。昨年9月、メキシコで開かれたインフルエンザ国際会議の席上、豪州の担当者はそう発言した。
日本から出席していた谷口室長は「われわれには無理だ。食料やエネルギーの自給率が低いので、貿易を止めるとインフルエンザの前に食料危機が起きてしまう」と答えると、その傍らで英国の担当者が「英国も同じ状況だ」と賛同した。
豪州はスペイン風邪の大流行の際、半年間、国境を閉鎖。その間にウイルスの毒性が弱まり、大きな被害を免れたと言われている。谷口室長は「今回の計画も、それを狙っているのだろう」と見ている。
◆
歴史上に3回
関係者が危機感を抱くのは、新型インフルエンザが大流行すると、大量の病死者のほか、社会システムや経済の混乱も予想されるからだ。
確認できている新型インフルエンザの大流行は歴史上、3回ある。スペイン風邪のほか、57年にアジア風邪、68年には香港風邪が出現。当時の医学力では封じ込めることができなかった。アジア風邪は200万人、香港風邪では100万人が死亡した。
インフルエンザウイルス同士には生存競争があると言われる。「スペイン風邪ウイルスはアジア風邪ウイルスに駆逐され、そのアジア風邪ウイルスは香港風邪ウイルスに押されて消滅したと推測できる」と谷口室長。現在のインフルエンザで最も勢いが強いA香港型(H3N2)は、香港風邪の子孫だ。
◆
状況は整った
インフルエンザ研究者らは「90年代以降、A香港型の勢力が弱くなっている」と見ている。
一般的には、3月ごろまでにA香港型の流行が終息し、その後にB型など勢力の弱いインフルエンザが流行する。しかし、2003年から04年に掛けてはB型と「混合流行」するなど、もはやA香港型に他のウイルスを封じ込める力はない。谷口室長も「出現してから30年以上もたっているウイルスなので、限界が来ているのだろう。つまり、新しい型のウイルスが出現する状況は整ったということ」と話した。
高病原性鳥インフルエンザ
国際獣疫事務局(OIE)は「最低8羽の鶏に感染させて、10日以内に75%以上の致死率があるもの」と定義している。現在、東南アジアなどで確認されている高病原性のH5N1は毒性が極めて強く、鶏は1、2日で100%死亡すると言われる。
毒性の強弱を基準に「強毒性」「弱毒性」と呼び分けることもある。弱毒性ウイルスは、鶏では腸管、人間では呼吸器と特定の部位でしか活性化(細胞感染)しない。一方で強毒性ウイルスは、ほぼ全身で活性化するため、重い全身疾患を引き起こす。出血などの症状が似ていることから「鳥エボラ」とも呼ばれる。
新型インフルエンザはいつ、どこからやってくるのか。研究者が最も警戒しているのが高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)だ。
人間の細胞と鳥の細胞では、ウイルスが侵入するための“かぎ穴の形”(受容体)が違うので、鳥インフルエンザは容易に人間に感染できない。しかし、一度に大量のウイルスを吸い込むと、まれに感染する。谷口室長は「人への感染が繰り返されると、ウイルスは徐々に人間に適応して感染力を高めていくと考えられている」と話す。
事実、これまでの新型インフルエンザはすべて、本来は鳥を宿主としていた「鳥型」ウイルスが突然変異して「人型」になったものだ。
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高い致死率
1997年に香港で、H5N1が鳥から人へ感染したことが初めて確認された。18人が発病し6人が死亡した。香港特別行政府はウイルスを持っている可能性がある同地区の鶏などの家禽(かきん)140万羽を処分し、ウイルスを駆除。その後の感染拡大は防ぐことができた。
しかし、2003年12月、東南アジアで別の起源と見られるH5N1が鳥から人への感染を始めた。その後は中央アジアや欧州など西に分布を広げている。世界保健機関(WHO)のまとめでは、今年4月末までに、9カ国で205人が感染し、そのうち113人が死亡した。致死率は56%と非常に高い。
WHO西太平洋地域事務局の葛西健医師は「人類はH5N1をアジア内部に封じ込めることに失敗した。新型インフルエンザの出現は、もはや爆弾の導火線に火がついた状態だ」と危機感を募らせている。
日本でも養鶏場などで数回、鳥インフルエンザが発生した。だが、「鶏を速やかに処分する社会態勢が整っている。鳥から人への感染が繰り返されて、人型に変異する可能性はほとんどない」と谷口室長。新型インフルエンザが国内から出現することはなさそうだ。
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準備は不十分
問題は外国からのウイルス流入と、入った後のまん延防止策だ。
政府は昨年11月、新型インフルエンザ対策行動計画を策定。その後、抗インフルエンザウイルス薬オセルタミビル(商品名・タミフル)の2500万人分(都道府県分を含む)備蓄を始めた。今夏にはH5N1を感染症法に基づく「指定感染症」に指定した。今後はコレラやチフスと同様に入院勧告も可能になる。
だが、国内の準備は不十分と見る専門家は少なくない。谷口室長は「対策に膨大な予算を投じるカナダや台湾に比べ、日本では新型インフルエンザの危険性さえ十分に知られていない。被害を抑えるには交通機関や公共施設の閉鎖が必要だが、だれが、どう指揮するのか。タミフルや試作中のワクチンをどんな優先順位で配布するのかなど、準備すべきことは山ほどある」と指摘している。
(熊本日日新聞2006年9月17日付朝刊「サンデー特報」)
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