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肺がんの化学療法 遺伝子配列の変異に着目
 難治がんの一つに肺がんがある。日本では一九九三年、胃がんを抜いてがんによる部位別死因のトップになり、「怖いがん」の代表格だ。ただ最近は、海外を中心に遺伝子レベルまで掘り下げ、肺がんのタイプと薬効の関係を調べる研究が進み、効果的な化学療法も生まれている。

 二〇〇二年七月、化学療法による肺がん治療の“特効薬”として、経口剤「イレッサ」(一般名ゲフィチニブ)が登場した。厚労省は申請後半年という異例のスピードで承認、日本は世界初の承認国になった。

 ところが発売後、副作用の急性肺障害・間質性肺炎による死亡者が続出。期待が大きかった分、衝撃も強かった。厚労省は、化学療法の経験が豊富な医師の管理の下、少なくとも投与開始後四週間入院などという使用条件を付けた。

 まだ多い謎

 イレッサは、進行性の非小細胞がんというタイプの抗がん剤として開発された。がん細胞に現れる上皮成長因子受容体(EFGR)を活性化させる物質の働きを阻害し、がん細胞の増殖を抑える。分子標的薬と呼ばれる薬剤だ。日本では“薬禍”とみられて混乱が続いたが、海外では三十一カ国が承認。劇的に効いて腫瘍(しゅよう)が急速に縮小した患者もおり、遺伝子情報との関係を探る研究が進んだ。

 今春、米マサチューセッツ総合病院でイレッサが効いた患者九人中八人で、EFGRの遺伝子配列の変異が認められた。半面、無効だった患者七人は全員、EFGRの遺伝子配列の変異がなく、薬剤への感受性と遺伝子の関係が着目された。

 これらを機に、日本でも肺がん患者の遺伝子配列の変異を調べるようになった。愛知県がんセンター(名古屋市)は、肺がん手術の経験者約三百人のがん組織を検査した。結果、40%にEFGRの遺伝子配列変異がみられ、日本人に変異が多いことが分かった。同センター胸部外科の光冨徹哉部長によると、イレッサを投与した患者約六十人に絞って調べ直したら、がん細胞が急速に縮小するなど、よく効いた患者では変異が裏付けられたという。

 同センターは、肺のがん細胞から気管支鏡や針生検で採取した微量のがん組織から、遺伝子配列の変異を短時間で調べる方法を開発。高度先進医療として臨床検査項目に追加、治療法の選択に役立てている。

 ただ変異があってイレッサが劇的に効いた患者でも、効果が持続する人と、そうでない人がいる。また変異がなくても、効果が長期間持続する人もいる。イレッサの薬効と遺伝子配列変異の関係はまだ謎が多い。

 見直される評価

 別の分子標的薬「タルセバ」(一般名エルロチニブ)も、米国で十一月に進行性の非小細胞肺がん治療薬として承認された。引き金は、肺がん患者約七百三十人を対象にしたカナダの臨床試験だった。偽薬投与群との比較で、タルセバ投与群の患者は生存期間とがんが増殖するまでの期間が有意に長かった。この薬は日本では臨床試験中だが、分子標的薬の評価は一ランク上がった。

 一方、さほどでなかった手術後の化学療法の評価も高まっている。術後肺がん患者を対象に、分子標的薬とは違う代謝拮抗(きっこう)系抗がん剤を使い、手術単独群と術後化学療法群の五年生存率を調べたところ、手術単独群73・5%、術後化学療法群84・9%だった。この試験結果などから、術後化学療法が見直され、肺を完全に切除した非小細胞肺がん患者などには、強く推奨する療法になっている。

(熊本日日新聞2004年12月22日夕刊掲載)

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