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広がる「在宅ホスピス」 住み慣れたところで最期まで
 末期がん患者などが住み慣れた自宅で療養する「在宅ホスピス(緩和ケア)」。心と身体の苦痛を和らげながら、家族との穏やかで密度の濃い時間が過ごせるという。昨年10月には県内初の在宅ホスピス専門クリニックが開業し、病院や自宅など療養の場を選べる環境が整いつつある。

「きょうも私にブレーキばかけてな」と仏壇の夫に話し掛ける橋本玲子さん。在宅ホスピスの良さは「近所付き合いをしながら夫に付き添えたこと」=熊本市の自宅
 「留守番しいしい、近所付き合いしいしい、木材を売り売り、父ちゃんと過ごした。黙々と働く静かな人だったけど、最期も静かだった」。熊本市松尾町の橋本玲子さん(70)は昨年の大みそか、夫一男さん(85)を自宅でみとった。

 50年間、二人三脚で材木店を経営。「私の名前が玲(れい)で父ちゃんが一だから二人で十。いつも一緒じゃないとダメ」と玲子さん。在宅ホスピスを選んだのも、そんな二人らしい生活を続けるためだった。

 ●手作りのみそ汁

 一男さんは週4日の訪問診療・看護を受けながら、体調のいい日はパソコンに向かって、千葉に住む孫の写真を眺めた。玲子さん手作りのみそで作ったみそ汁と、老人会の人がおすそ分けしてくれるナスのみそ漬けやツワブキのきんぴらで食も進んだ。

 夏を越せたらいいと言われていたが、9月の金婚式も10月の誕生日も迎えることができた。在宅療養を始めて10カ月、玲子さんが正月を迎えるために床の間を掃除している間に、静かに息を引き取った。「大みそかにもかかわらず、すぐに先生と看護師さんが来て、父ちゃんをきれいにしてくれた。本当に感謝している」と玲子さんは振り返る。

 こうした在宅療養を望む家族を支えようと昨年10月、熊本市神水に在宅ホスピス専門の診療所熊本ホームケアクリニックが開業した。院長はイエズスの聖心病院みこころホスピス(同市上熊本)で13年近くホスピス医療に携わった井田栄一医師。「在宅、ホスピス病棟、一般病棟のどこでも同質の緩和ケアが利用できるのが理想。それには在宅ケアの充実が必要」と話す。

 熊本ホスピス緩和ケア協会(小林秀正代表)によると、県内のホスピス病棟は5施設83床。実際にみとったのは2004年が499人で、05年は同クリニックの5人を加えて497人。これは、がん死亡者数の約1割にすぎない。

 このうち在宅でのみとりはさらに少なく、04年28人、05年32人。ホスピスの浸透に伴い、入院待ちは常に20―30人。「これまでも在宅での診療やみとりに取り組む診療所はあったが、地域ニーズと比較すると不十分」と井田院長はみる。

 同市若葉の中川原雅夫さん(63)は昨年のクリスマス、母親の冨治代さん(90)を自宅でみとった。「乳がんが骨や肺に転移し、激しい痛みがあった。痛みが増すようだったら、母が嫌がっても入院させようと考えていたところ、在宅ホスピスのことを知った」と雅夫さん。

 「病院と連携を」

 「先生や看護師さんが母の昔話にもじっくり耳を傾けてくれた。投薬による痛みの緩和だけでなく、訪問によって母は痛みを忘れることができたと思う」と雅夫さん。「母がもう少し若ければ治療を望んだかもしれない。今後は、治療を続けながら緩和ケアを受けられる環境が整っていけば」と期待する。

 「緩和ケアがより早くがん患者と接点を持てる環境をつくりたい。そのためには基幹病院との連携が欠かせない」と井田院長。4月から外来診療も始め、基幹病院での治療と同クリニックでの緩和ケアを並行して受けられる体制が整う。

 井田院長は「今後は、希望に応じて在宅ホスピスからホスピス病棟や療養病床へもスムーズに移行できるよう施設間の連携を深めたい。そして、連携先の医療機関に入院した後も緩和ケアのスタッフとして患者にかかわりたい」と話す。

 (熊本日日新聞2006年3月14日付朝刊くらし面)

 
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