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若年性認知症の今 −困難と不安の中で―

 (中)診断と治療 症状悪化 新薬治験進まず
芙美子さんの「ひらがな日記」には、孝男さんとの日々がつづられている。病状の進行と共に、字が斜めになっていく(植山茂)
 「若年性認知症は最初の診断が極めて重要。専門の外来でさえ違う病気と間違えられる場合もあります」

 長年、認知症の臨床研究に取り組み、本年度から厚生労働省の研究班メンバーとして若年性認知症の実態調査を始める熊本大大学院の池田学教授(神経精神科)は、診断の難しさを強調する。


 頭部外傷、脳血管性障害、アルツハイマー病、ピック病、脳腫瘍(しゅよう)。六十五歳未満で発症する若年性認知症は、老年期と比べて原因となる病気の種類もさまざまだ。アルツハイマー病も進行が早く症状も多彩。このため、正確な診断が下りるまで時間がかかることが多い。

 池田教授が前任の愛媛大時代に約六百七十人の患者を対象に行った調査では、発症から診断がつくまでの期間は、老年期の約三年に対し若年期は約五年だった。

 「若年性の場合、うつ病を併発している場合も多く、うつ病や統合失調症とされてしまい、正確な診断が遅れる場合がある。家族も周囲も『まさか認知症なんて』という思いが強いが、逆に診断がついて楽になったと言う患者や家族もいます」


 県内在住で若年性アルツハイマー病と診断された芙美子さん(五十代、仮名)も、専門外来にたどりつくまで二年かかった。眼科、婦人科、脳神経外科の病院を渡り歩き、五軒目の総合病院でやっと診断がついた。

 今はアルツハイマー病の治療薬を飲んでいるが、症状は緩やかに進行している。服を自分で着ることができない。トイレの場所が分からなくなる。夕飯の支度、字の読み書き…。どんどんできないことが増えていく。

 夫の孝男さん=五十代、仮名=がいる時は、孝男さんが常に傍らですべてを手伝う。孝男さんが仕事でいない昼間は、孝男さんの親せきが手伝う。自分一人では何もできない生活。芙美子さんは徐々に進む病気を悲観して、こんなこともあった。

 台風が県内を襲撃した八月の早朝、泣きながら外に飛び出そうとする芙美子さんを、孝男さんは必死に止めた。

 「何で、何で死んだらいけないの。自分の意思でできることが何一つも無い。一円の価値も無い、屑(くず)屑、屑…」。芙美子さんは泣きわめいた。

 調子が悪い時は毎日のように、「死にたい」と泣きながら訴える芙美子さん。孝男さんはただなだめるしかない。


 若年性認知症には、原因となる病気の診断と病気に応じた治療、はいかいなどの問題行動や要求や訴えの反復といった認知症の特性を理解したケアが重要となる。予防が可能な脳血管性障害、治療が可能な脳腫瘍(しゅよう)など外科的疾患もあるが、アルツハイマー病に根治療法はなく、いまの医学では進行を止めることは難しい。

 薬もアルツハイマー病の治療薬として、国内で用いられているのは一種類のみ。しかも、かなり早い段階に飲み始めないと効果は十分期待できないという。「早く症状を改善してくれる新薬を」。芙美子さんをはじめ患者の思いは切実だが、海外に比べ治験はなかなか進んでいない。

 介護の問題も深刻だ。〇六年の介護保険制度の改正で、「若年性認知症ケア加算制度」が導入された。しかし、若年期の患者を受け入れる施設は全国的にもまだ少ない。

 芙美子さんも一度、デイサービスやデイケアを利用するよう医師に勧められた。だが、利用者の大半はお年寄り。「親と同じ世代の人に交じるのは抵抗がある。話も合わない」と見送っている。

 池田教授は言う。「高齢者と同じサービスでは、受けたくないという人が多くても仕方がない。適切なケアやリハビリを受ける居場所がないことは、若年期の特有の問題。これから始める調査では、介護保険の利用状況も把握し、支援の在り方を探っていきたい」(田端美華)

  (熊本日日新聞2007年12月18日付朝刊)
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