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血栓溶解薬「tPA」 脳梗塞治療も保険適用に
 心筋梗塞(こうそく)の治療に使われている血栓溶解薬「組織プラスミノゲンアクチベータ(tPA)」が、脳梗塞の治療に使っても医療保険が適用されるようになった。欧米では十年ほど前から脳梗塞治療に使われているが、血栓を溶かす作用が強く脳出血の副作用を伴う危険性もある。このため日本脳卒中学会は治療指針を作成、適正な使用を呼びかけている。

 死者は年8万人

 厚生労働省の二〇〇四年人口動態調査によると、脳梗塞の死者は年間約八万人。患者は百万人以上に上る。脳内出血やくも膜下出血とともに「脳卒中」と呼ばれ、がん、心臓病と並ぶ日本人の三大死因の一つだ。

 軽症を除く脳梗塞の死亡率は20%程度。くも膜下出血などに比べれば低い。ところが国立国際医療センター(東京都新宿区)の上坂義和医長(神経内科)によると、死亡者と後遺症が残る人を合わせると患者の七〜八割は元の生活には戻れない。後遺症に苦しむ人が多く、介護者の負担も大きい。

 脳細胞は血流が止まると、直ちに損傷を受ける。このため脳梗塞は、血流を素早く再開できるかが治療を左右する。tPAが使えるようになる前、国内には有効な治療法が少なかった。多くの病院は、脳保護剤や血流を増やす薬を使いながら、症状が落ち着くのを待っていたという。

 社会復帰1.5倍

 tPAは、もともと血液中にある酵素。血管内皮細胞で産生され、血液中に分泌される。血栓ができるとそこに吸着し、プラスミノゲンというタンパク質をプラスミンという酵素に変換し、この酵素が血栓を溶かす。

 tPA治療は、定められた量の10%を静脈注射で投与し、残り90%は一時間かけて点滴する。米国での臨床試験では、tPAで治療すると、社会復帰できる患者が26%から一・五倍の39%に増加した。国内の臨床試験でもほぼ同様の結果が得られている。

 「もろ刃の剣」

 ただ血栓を溶かす作用が強いため、脳出血を起こしやすくなる。日本脳卒中学会が作成した指針は「血栓溶解薬はもろ刃の剣」と指摘、使用対象を発症後三時間以内(超急性期)の患者に限定し、CT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)で頭蓋(ずがい)内出血の有無の確認など、厳しい条件を付けている。

 「tPAは正しく使えば恩恵を受ける人が増える。しかし基準に従わずに使うと副作用で死亡率が上がることが分かっており、気軽に使うのは危険だ。CT画像の読み取りなど、能力が問われる」。上坂医長はそう強調する。

 脳梗塞を起こすと、半身まひや、ろれつが回らない、めまい、視野が狭くなるといった症状が現れることが多い。だが症状が出ても、様子をみてしまう人が多く、三時間以内に病院に来る人は少ないという。

 臨床試験中、同医療センターでtPA治療の対象になった患者は十七人に一人程度の割合だったという。

 上坂医長は「早く病院に来てtPAを使えれば、後遺症を残さず元の生活に戻れる可能性が高くなる。症状が出たら、一刻も早く救急車を呼んでほしい」と訴えている。

 (熊本日日新聞2005年12月28日夕刊掲載)
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