阿蘇の山里ではこの時季、「田植えはもう済ませたな」が住民たちのあいさつ代わりだ。水を張った棚田は、今年も米作りができる農家の喜びを映しだしているようにも見える。
しかし、稲作ができるのも農道や水路の維持管理など、集落の共同作業が機能していればこそ。農業生産で不利な条件を抱える中山間地では、市場の厳しい価格競争もさることながら、過疎・高齢化が追い打ちとなり、担い手不足と農地の荒廃が進んでいる。
こうした中山間地域の農家に現金を支給し、耕作放棄地の拡大を防ぐ「直接支払制度」(一期五年)がスタートして八年が経過した。二期目の中間年評価を迎えたが、農地保全や集落活動の活性化などで成果を挙げている実態が県内各地から報告された。
同制度は、急傾斜の農地などを抱える地域に、集落協定などの条件を付けて交付金を支給。各農家は交付金の半分を出し合って、鳥獣被害の防止や農機具の共同利用による集団営農などの活動に五年間取り組む。二期目(二〇〇五~〇九年度)はさらに、集落のマスタープラン作成を付加するなど条件は厳しくなったが、将来に向けた足元の強化を求める内容にもなっている。
県内では、全四十八市町村のうち三十六市町村が対象。協定集落は千三百八十を数え、交付面積は三万二千ヘクタールと北海道に次ぐ全国二位。〇七年度の交付総額は約二十三億円で、農家一戸当たり六万八千円。うち半分を拠出して共同での取り組みを続けている。
中間年評価の自治体や集落アンケートでは、この制度がなかったら対象農地の二割弱、五千七百ヘクタールが耕作放棄地となっていただろうとの回答が寄せられた。言い換えれば、社会的、経済的に厳しい状況にあえぐ県内の中山間地にとって、営農継続への生命線の一つとなっている実態がうかがえる。
兼業化や非農家の増加で、かつての共同体意識も薄れるなか、「集落での話し合いが活発化した」という声も多かった。新しいきずなの形成という点も成果として挙げられる。
都市住民を招いての交流事業や、児童生徒らを対象にした野外活動、農業体験などの支援に取り組んでいる集落も少なくない。地域外への地道な働きかけは、この制度に対する国民の理解を深めてもらうためにも有意義だろう。同時に、交付金の使途について透明性を高めていく必要もある。
世界的な農産物の高騰、食の安全に対する国民の関心が高まっている現今、安全・安心な国産農産物を安定的に消費者に届けることは喫緊の課題である。県土面積の七割以上を占める中山間地も重要な一翼を担っている。
さらに水源涵養(かんよう)や景観保全などの面で果たす役割も大きい。小規模ではあるが、環境保全型農業として適地であり、安全な食に対する国民のニーズに呼応していく好機ではないか。
ただ、限界集落など中山間地が抱える難題を解決するには、この制度だけでは物足りない。農地・水・環境保全に向けた支援制度も新設されたが、省庁を超えた幅広い対策が求められる。
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