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地元に熱意ある人の働き口を 水俣市で飲食店経営 伊藤友弥さん(29)【2024熊本知事選 若手記者企画「熊本暮らし 先輩に聞いてみた」⑤】
水俣市で最も若者が集う店といえば、ファストフード店「おるがんと商店」かもしれない。
代表の伊藤友弥さん(29)=同市=が、地元の同級生らとともに、クラウドファンディングなどで資金を集めて2020年8月にオープンした。伊藤さんは、水俣高卒業後、琉球大に進学。在学中の2年間、カナダやアメリカに渡り、音楽の世界にどっぷり漬かったという。
県外や海外で生活した伊藤さんが地元に戻り、起業したのはなぜか。記者は気になっていた。
初恋通り商店街の最も南に位置する「おるがんと商店」。天然酵母のパンを使ったハンバーガーやサンドイッチが売り。そのルーツは、伊藤さんがカナダで勤めていた飲食店にある。オーナーの影響で天然酵母に関心を持ち、琉球大に復学した後もパン工房で働き知識を深めた。店のメニューや内装は、伊藤さんの経験と世界観が色濃く反映されている。
店内で目につくのが「茂道」「湯出」「湯の児」など市内の地名を冠したオリジナルブレンドのコーヒー豆。包装には、それぞれの地域の風景を描いた温かみある絵をあしらう。地元の農家や漁師らの協力を得た期間限定メニューも2カ月おきに登場。「地元に支えられている店だからこそ、いろんな方と協力して輪を広げたい」と話す。
これほど地元思いになったのは、地元を離れた経験があるから。「海外や沖縄では、生まれ育った街への誇りとリスペクトを持つ人が多かった。私はというと小中高校時代、水俣の地で育ててもらったのに、『水俣病』という負のイメージと差別の怖さから、出身地を言いたくなかった」
子どもの頃に、県外では出身地を隠したかった、という水俣出身者は多い。伊藤さんは、事業を立ち上げることを通して、地元への「誇り」を取り戻そうとしているのかもしれない。
3年半前、伊藤さんが起業する目的の一つに掲げたのが「若者の働き口を増やすこと」だ。「家族経営が多い地方で、新たな選択肢を示したかった」。昨年7月には鹿児島県出水市に2店舗目となる「おるがんと氷店」を開店した。現在の従業員はフルタイム5人とアルバイト10人。従業員の関心や意欲を高めるためのサポートは惜しまない。「若い人なら、外に羽ばたいて新しいことに挑戦してみたい人も多いはず」
一方、地方ならではの強い結び付きが、窮屈さにつながる心配もある。「コミュニティーができあがっているがゆえに、暗黙の了解が存在し、話しづらい空気がある」と指摘する。「出るくいは打たれるような地域では魅力を感じられない。熱意や能力を持っている人が、伸び伸びと働ける環境が必要」と話す。
高校や大学進学を機に地元を離れる若者は多い。その先でさまざまな価値観に触れ、学びを得た若者が「戻ろう」と思える熊本になっているだろうか。
国立社会保障・人口問題研究所が昨年末、公表した2050年の将来推計人口によると、熊本県全体の人口は135万5329人。20年の173万8301人から2割減を見込む。水俣市はほぼ半減し、1万2700人となる見通しだ。
水俣市議会に加え、さまざまな自治体の議会や、国会での議論をインターネットで見るという伊藤さんだが、政治や行政への要望は特にないという。「議会で質問しない議員もいる。お金だけもらって仕事しないのはおかしいし、そんな状態が続いているようでは議会や政治に期待はできない」。知事選では「候補者を支援する政党を含め、信頼できるかどうかで投票先を決める」という。
伊藤さんの当面の目標は、店の経営をより安定させるために3店舗目を開くこと。「収益を上げて、従業員の社会保障や福利厚生、休みをしっかり確保できる態勢を整えたい」。本年度も確定申告を終えたばかり。「私は目の前の従業員のこと、店をどうするかを考えることに集中しないと。政治に対して、ああしろ、こうしろとあまり考えないようにしている」
願うのは、優秀な人材が海外に流れることがない未来。「熱意や能力がある人が、日本、そして熊本に残りたいと思える社会であってほしい」と思う。
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