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無人島に携えていくなら… 私の読書スタイル 「評価の定まったいいものだけを読む」 <細川護熙さんエッセー>
明治時代に東京帝国大学で哲学を講じ、かの夏目漱石などもたいへん尊敬していたというケーベル博士が、「もし無人島に住むことになったらどんな本を携えていくか」という前提で、その期間を仮に一年とするならばとして「聖書」、トマス・ア・ケンピスの「キリストに倣いて」、ゲーテの「ファウスト」、ホメロス、リュッケルトの「婆羅門の智慧」、「ドン・キホーテ」、ニーチェのもの二、三冊、それとハイドン及びベートーベンの「弦楽四重奏の小判の総譜本」を挙げています。
今、同じような問いを投げかけられたら、私は迷わず梁楷や大雅など数冊の画集と、「万葉集」「古今集」「方丈記」「老子」「宋名臣言行録」「古文真宝」、道元や良寛をはじめとする仏教関係のもの、「徒然草」そして「私の漢詩選」、「私のオリジナル箴言集[しんげんしゅう]」を持っていくと答えるでしょう。
「私の漢詩選」というのは、以前雑誌の連載で、中国に出かけて詩や偉人のゆかりの地を訪ね歩く取材をやったので、その時に私オリジナルの漢詩選をまとめたものです。
陶淵明、白居易、李白、杜甫、孟浩然、陳子昂、王維、韋応物、柳宋元、王安石、蘇軾…というように人物ごとに分けてあり、その中でもとくに好きな詩を選んであります。
便宜的に「私の漢詩選」としていますが、詩だけでなく、例えば蘇軾の「赤壁の賦」のような韻文も含んでいます。
「私のオリジナル箴言集」というのは、本を読むとき私がマーカーなどでつけた傍線や付箋の部分のコピーを取ったり、切り貼りしたりして、テーマごとに分類したものです。
「宋名臣言行録」は南宋時代の朱子が編纂[へんさん]したもので、政治や行政に携わる者の処すべきことが多く載せられ、知事の頃から折にふれて手にしたものです。人事の要諦として「人を挙ぐるには、すべからく退を好む者を挙ぐべし。退を好む者は謙虚にして恥を知る」(張詠)とか、「我が平生の学ぶところ、ただ忠恕の二字を得て、一生用ひて尽きず」(范純仁)なども肝に銘じている言葉です。忠恕というのは、「宋名臣言行録」にもありますが、本当に思いやりを尽くすことが全てにおいて大事なことで、私はこれはリーダーに必須の条件だし、人として忘れてはならないことだと思っています。これはどんどん追加されて、今やかなりの冊数になっています。
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